突然の異動、そして……新人マネジャー田所晋一の場合(1/2 ページ)

新人マネジャーがいかにマネジメントに取り組むかを小説スタイルで解説する新連載「新人マネジャー田所晋一の場合」。ある日突然、異動とともに昇進を言い渡された主人公・田所晋一の物語が始まります。

» 2009年11月12日 08時30分 公開
[鳥谷陽一,Business Media 誠]

連載「新人マネジャー田所晋一の場合」について

組織・人事戦略に関するコンサルティングなどを行うプライスウォーターハウスクーパースHRSで、ディレクターを務める鳥谷陽一さんの新連載「新人マネジャー田所晋一の場合」。新人マネジャーがいかにマネジメントに取り組むかを小説スタイルで解説します。毎回の最後には、注目してほしいマネジメントキーワードの図解付き。この冬、マネジャー必見のコンテンツです。

第1回:突然の異動、そして……

第2回:やっかいな部下との評価面談、成功のカギは「納得を引き出す」

第3回:「サムライジャパン」に込められた意味とは――リーダーならビジョンを示せ

第4回:「予想外」をチャンスに変える――マネジャーとしてのキャリア開発


 田所晋一は、2000年4月、大学を卒業してすぐにこの会社に入った。体育会出身のバイタリティと、新入社員研修での前向きな言動が評価されたのだろうと自分自身では分析しているが、この会社では新卒でほとんど配属されることのない営業部でのスタートになった。

 新卒者が営業に配属されてこなかった理由の一つに、この会社の営業は、少なからず経営に関する知識が求められ、かつ、中小企業ではあるが経営トップに対して問題解決型の提案をするということが求められているというものがある。当然ながら、

 「社会人1年目の新人に、そう簡単にうちの営業の仕事がこなせるわけがない」

 というのが先輩たちの見方であった。しかし、そんな嫌味な陰口を一蹴するかのように、田所は売り上げ実績をどんどん伸ばしていった。入社から8年以上が経った今も、売り上げ予算に届かなかった年度は一度もない。景気がよくない時代もありながら、営業としてずっと目標達成という事例も極めて珍しいということで、今や若手のエースとまで言われるようになった。

 そんな田所に、この秋に突然、「営業推進課」への異動が発令された。しかもそれは課長職へ昇進を伴う形でのものだったので、田所にとっては二重の驚きだった。

 「新しい仕事でなおかつ新しい立場での仕事、不安でいっぱいですよ。好きな営業を伸び伸びやらせてほしかったな、何でまた会社はこんな人事異動を決定したんだろう」

 「課長昇進だからめでたいことじゃないか、そっちを喜べよ」

 「でも、課のメンバーは全員僕より年上ですよ。専門知識は半端じゃない人ばかり。どうやってそこでリーダーシップを発揮すれば良いのか、皆目見当がつかないな」

 入社以来ずっと親しくさせてもらっている、ちょうど10期先輩である杉浦を近くの居酒屋に誘って、田所は愚痴をこぼした。

 「確かに、君の課のメンバーはつわものぞろいだな。飯村さんは中小企業診断士を持っている。大久保さんは40歳を超えてあの部署に異動になった後、夜間の大学院で経営学修士をとった。ほかの人たちもみな勉強好きでうんちく屋も多い。話好きだよな、専門知識ではなかなか勝てそうにないな」

 ずっと励まして続けてくれると思っていた杉浦からも、更に不安をあおるようなことを聞かされたので、田所は一層心配になった。

 「先輩、勘弁してくださいよ、さっきまで大丈夫だって言ってくれてたじゃないですか」

 「ごめんごめん、でもリーダーシップについては考えないといけないな」

 杉浦は、田所の肩を軽くたたきながら苦笑いした。

 「田所、君は営業としてはスキルも実績も申し分ない、まずそれは大きな武器だな」

 「はい、ありがとうございます」

 田所は、杉浦のほうに少し体を傾けて頷いた。

 「これは立派なリーダーシップの源泉になる、自信を持っていいんじゃないかな。飯村さんも大久保さんも、そのほかのメンバーも口は立つが、君ほどの実績はない」

 田所は杉浦の言葉の続きを待った。

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