この夏広がる? 山の恐怖樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」(1/2 ページ)

あなたは山に住む吸血鬼をご存じだろうか。一度吸い付いたら、吸った血でからだが膨れあがるまで離れない、にっくきやつ。その名は……。

» 2010年08月05日 11時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 あなたはこの夏、彼女と山にドライブに行ったとする。あるいは職場の同僚同士、同年代のメンバーでピクニックに出かけたとする。

 誰かが尿意をもよおしたのだが、周りにトイレは見あたらない。仕方がないので林の中でことを済ませることにした。しばらくすると、林の中で大きな悲鳴が!

 「どうした!」熊でも出たかと慌てて飛んでいくと、彼、あるいは彼女が自分の足の先を指し、「こんなのに噛まれている!」と叫ぶ。見るとそこには、まん丸く膨らんだ吸血鬼が食らいついていた。

 ヤマビルである。蛇やクモに負けず劣らず、ヒル(蛭)は気持ち悪い生き物である。おまけに人の血を吸う。これが温暖化の波に乗って、日本全国の山々に広がりつつある。今や、房総半島にも、丹沢にも、北海道にもヤマビルは生息している。観光客や山歩きをする人にとっては大きな問題だ。

 現役時代、わたしはネパールに駐在していた時に山道をよく歩いたが、夏の雨季にはヤマビルだらけだった。何度もかまれた。山道で小便をしていると周りにいっぱいヤマビルがいて、頭を持ち上げて近づいてくるのだ。ピョンピョン踊りながら逃げたが、すでにかまれていた。

山の吸血鬼、ヤマビル

人間の肌に吸い付いているヤマビル。Creative commons. Some rights reserved. Photo by Cfm1v333

 ヤマビルは、きわめてハイテクなセンサーを持っており、人の体温や発散する二酸化炭素を感知して、頭を振り上げながら進んでくる。怖い。しかも驚くほど素早い。

 木の上にいて、人の体温を感じるとパラパラと頭の上に落ちてくるヤマビルもいる。気色悪い。音もなく素早く人に接近し、靴に取り付いて靴から靴下の上まで上り詰め、そこで足の肌にかみつく。この間、まったく分からないステルス性を持っている。かみつく時にはきわめて巧妙な技を使う。かむと同時に麻酔を注射するのだ。したがって痛いどころか、かまれたことも分からない。

 歯医者さんの麻酔注射を思い出してほしい。「はい、チクリとしますよ」と、最初のチクリだけはしっかりと感じるはずだ。しかしヤマビルがすごいのは、最初のチクリすら感じないという点。これには独特のノウハウがあるはずで、医療の麻酔にはヤマビルのかむ方法を応用できるのではないかとにらんでいる。

 話を戻そう。かむと同時に注射するのは麻酔だけではない。血液が固まらないようにする成分まで注射してくるあたり、えげつない。血液が固まらないのだから、血はいくらでも出てくる。飲み放題なのだ。血を飲みすぎた結果、あの平べったいヤマビルは、コロンコロンに丸く膨らんでしまう。

 血を固まらないようにするこの成分は、脳梗塞予防に使えるかもしれない。実はヒルは、欧州や中東では、悪い血を吸い取る「瀉血(しゃけつ)」という治療法のために古くから使われてきた。それにどのような医学的な意味があるのか筆者はよく知らないが、もしかしたらヒルは黒焼きにしたら漢方薬として使えるのではないか……などとも思う。

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