1年間乗って気付いた自転車の意外な効用防災・防犯ラボ(1/2 ページ)

災害など緊急時の交通手段に役立つのが自転車。エコ、経済的、健康的に加えて、乗る前は想像すらできなかった意外な効用があるのです。

» 2011年11月09日 11時00分 公開
[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]

 こんにちは、防災・防犯ラボの主任研究員・ナカヤマです。「災害や緊急時に一番信頼できる移動手段って何?」と問われたら、私は「自転車」と答えます。

 燃料は不要でメンテナンスは最小限。免許いらずで乗る人を選ばないし、小回りと機動力も備えていて、ある意味最強です。私は自転車生活を1年ほど続けていまして、その中で「自転車の意外な効用」に気付きました。いわゆる「エコ、経済的、健康的」といった予想できたことではなく、乗る前は想像すらできなかった効用です。

 この予想外の効用は、防災にもゆるく関係してきます。また自転車の法改正が急ピッチで進んだり(ピストなどの)取り締まりが強化されたりと、自転車を取り巻く環境は昨今変わりつつあります。今回のテーマはそんな話題としてもタイムリーな自転車を取り上げたいと思います。

 なお、自転車はある意味最強ではあるのですが、東日本大震災では液状化現象など、逆に自転車だと危険な場合もあります。以下の内容は、安全で舗装された道を走れる場合の話であるとご理解ください。

街を脳にインストールする!

 乗る前は想像すらできなかった自転車の意外な効用とは、「街を脳にインストールできること」です。

 唐突な表現になりましたが、どういうことかと言うと「自転車で街を走ると、道路、地形、商業施設・自治体建物などのランドマークがすんなり記憶できてしまう」のです。それも無意識のうちに。自転車で走る行為は、地図上の道路をペンで塗りつぶしていく作業に似ており、一度塗ると脳にインプットします。あちこち道路を制覇していくうちに、線が縦横に増え、網の目ができ、やがて「面」となってつながっていきます。

 子供のころ、初めて自転車を買ってもらったときのことを覚えていますか? 夢中で街中を走り回ったものでしたよね。行動半径が飛躍的に広がり、まるで「街がオレのものになった!」――あの喜びを覚えている方も多いでしょう。

 ではいい年をした大人が街のデータを記憶できたとして、具体的に何がどうよいのか?

 「ナビがあれば事足りるではないか」「GPS携帯やクラウドデータ管理全盛時に、わざわざ記憶する意味が分からない」と首をひねる方もいらっしゃるでしょう。

 理由を3つ挙げます。

1. 街を3次元で把握できる

 街を面で覚えていくうちに、やがて街を3次元でイメージできるようになります。(ドラえもんの道具の)タケコプターで街を見渡しているような爽快さがあって、じつに新鮮な驚きです。

 いつどこにいても現在地と目的地の位置関係、おおよその距離、複数のルート、所要時間、(坂の登り降りなど)高低差が、パッと脳裏に浮かびます。市町村の境界や県境は関係なく、地続きの面として把握できるのです。(カーナビ付きの)車に慣れていたころは、「自宅」と「目的地」を結ぶ線でしか街を把握できていませんでした。

 脳に街をインストールすると、公私関係なくあらゆるシチュエーションで役に立ちます。単純に道を覚えただけでなく、警察署、消防署、役所や県庁などの自治体の拠点、避難場所(大きめの公園、公民館、公立の学校、スポーツ施設)などの位置関係が把握できるようになりました。抜け道にも精通します。

 3次元で街を俯瞰(ふかん)して痛感するのは、「街ってこんなに小さかったっけ?」ということ。特に山手線内のコンパクトさといったらありません。自動車に比べてスピードも行動半径も劣るにもかかわらずそう感じるなんて、何だか逆な気がしますが、事実です。

2. 自宅から遠く離れてもストレスを感じない

 次に街を小さく感じられると、自宅から離れることがストレスではなくなります。普通は我が家から離れるほど、漠然と「帰宅がしんどいな」とか「帰りの手段を確保しておかなくちゃ」と無意識レベルで心配になるものですが、これがありません。

 なぜだろうと考えて思い当たったのが、終電(終バス)時刻、駅の混雑とそこまでのアクセス、乗り換えルートの選択、コインパーキングなどの駐車料金(と時間)、道路渋滞といった交通の制約からの解放です。全てではありませんが、自転車であればほとんどの制約からオサラバできます。ルートもペースも自由だし、誰にもジャマされません。公共交通ダイヤに縛られることもないのです。

 ストレスがないということは、行動半径の拡大につながります。(きちんとしたスポーツ自転車であれば)ざっと半径30キロ(※)は守備範囲になるでしょう。街は縮小し、行動半径は拡大するのでますます街を手中におさめた感が強化されます。

※「新宿駅〜横浜駅」「名古屋駅〜岐阜駅」「大阪駅〜神戸駅」の区間が30キロの目安です。

 脳内に帰宅支援マップを持ち歩いているようなものなので、仮に地震や台風で交通機関が止まったとしても、大抵の場所から迷わずに帰宅できる自信も付きました。

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