米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、東京国際フォーラムで5000人を前に特別講義を行った。テーマは「ここから、はじまる。民主主義の逆襲」。受講者に語りかけながら議論を促すおなじみのスタイルを取ったサンデル氏。これから数回にわたってその模様をお伝えする。
「もしあなたが大学生で、『あなた自身の命名権をくれるのなら授業料を出す』と企業に言われたらあなたはどうしますか?」「3.11のような震災がまた起こった場合、政府が発信する情報とTwitterや個人ブログの情報、どちらを信頼しますか?」――ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』筆者で米ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏が来日し、5月28日に東京国際フォーラムで約5000人を前に「ここから、はじまる。民主主義の逆襲」と題した特別講義を行った。
サンデル氏の講義はこのように、YES/NOをハッキリと示しにくい議題を受講者に投げかけ、自分の頭で考えさせるのが特徴だ。ハーバード大学でのサンデル氏の講義「Justice(正義)」は、延べ1万4000人超が履修し、テレビ放映で一般公開されたほど。今回の特別講義も5000席の枠に倍の応募があったという。2年前の出張講義(参照記事)では500人だったから、今回は約10倍の受講者を集めた。
当日の内容は大きく前編、後編の2部構成。前編は5月16日に発売した近著『それをお金で買いますか――市場主義の限界』でも触れているダフ屋のチケット問題や命名権、インセンティブについて。後編は東日本大震災を受けて日本の原発問題などを題材としたものだ。いずれもボードやスライドは一切使用せず、受講者に語りかける対話形式のスタイル。議論を促す“サンデル流”講義の全ぼうをお伝えする。
サンデル 今晩のテーマは『ここから、はじまる。民主主義の逆襲』です。今、民主主義が直面している課題が「お金と市場の役割は何なのか」「社会でお金が果たす役割は何なのか」ということです。今日の世界では、お金で買えないものはどんどん少なくなってきていますよね。
例えば皆さんが罪を犯し、刑務所に行かなければならないとします。ところが普通の独房は狭くて嫌だ、お金を払って快適な独房に行きたい。こうした要望が米カリフォルニア州のある町ではできるんです。お金があれば快適な独房が買えるんですよ?
少し昔話をしますが、子供のころ、私は野球のファンでした。お気に入りのスター選手のサインを集めていたんです。当時は少し早めに野球場に行けば、選手たちはファンにサインをしてくれたんです。私はボールや紙にサインをしてもらいました。
一度ラッキーだったのが、あるゴルフトーナメントに行ったときのこと。チャリティートーナメントだったので、いろいろなスター選手が来ていて、私にもサインをしてくれました。元メジャーリーガーのミッキー・マントル、ジャッキー・ロビンソン、ジョー・ディマジオ。今でも実家の屋根裏部屋のどこかに彼らのサインがあるはずです。
こうしたサインは、一瞬の思い出ではありますが、記念ですよね。偉大な私のヒーローであった選手との思い出です。しかし現代では、こうしたスポーツ選手のサインの集め方がずいぶんと変わっています。それはもう数十億ドルもの一大産業に育っているんです。そしてブローカーやディーラーなどの仲介業者、さまざまなお店がサインを扱っています。これは時代の象徴といえるでしょうかね。時代はここまで変わってきているんです。
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