レディー・ガガのチケットと病院の予約券、許せるダフ屋は?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(2/6 ページ)

» 2012年06月05日 18時05分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

自分の街の命名権は誰のもの?

サンデル 最近スポーツスタジアムに行くと、企業の名前が付いている場合がありますよね。命名権というものです。今ではおなじみとなっていますが、実は30年前はほとんど知られていないことでした。

 あるニュースで見たのですが、日本でも大阪府の泉佐野市が命名権を売却する話題がありましたよね。そのように今ではスポーツスタジアムなどの域を超えて命名権が広がっています。さて、ここで皆さんに意見を聞きたいと思います。

あなたの住んでいる町の財政が厳しく、今にも破たんしそうです。そんなとき、ある企業が何百万円かを寄付してくれることになりました。ただし、条件があります。町の名前を企業の名前と関連したものしてほしいというものです。あなたなら賛成ですか? 反対ですか?

サンデル (会場では白[賛成]と赤[反対]が半々)なかなか面白い結果ですね。半々に分かれるとは、私はこういう結果になるとは思っていませんでした。興味深いです。

命名権の売買を多数決で決めた場合

サンデル では、あなたが住んでいる町や市の名前を企業に売ることについて、まずは賛成の人の意見から聞いてみましょう。白を挙げた人、賛成する理由は何ですか?

ケイタ(賛成) 賛成です。命名権を売ることに反対する理由はないし、賛成をすればお金が入ってくるので。

サンデル 分かりました。では反対意見も聞いてみましょう。どういう理由で反対したのか、そしてその反対意見を聞いて賛成の人を納得させられるかもしれませんし、できないかもしれません。

アオイ(反対) 市というのは、企業の財産ではありません、市民の財産です。ですから一企業が市の名前を買うのは正しくないと思います。

サンデル あなたの名前は?

アオイ(反対) アオイです。

サンデル では先ほどの人は? ケイタですね。ではケイタ、アオイに話してください。そしてアオイの理由に納得したかどうか答えてください。

ケイタ(賛成) 当然、市というのは企業のものではないと思います。でも、市が市民のものである以上、市民にとって利益になる命名権が与えられる場合は、承認されてもいいんじゃないかと思います。

サンデル アオイはケイタのこの意見にどう反論しますか?

アオイ(反対) そうですね。命名権の売買を決める人は責任者ですよね? 市で言えば市長など。うーん……ソーリー(困った様子)。

サンデル いいですよ、ではちょっとアオイに質問をしましょう。例えば市の名前を変えることで、市民はお金を受け取れるとします。それに対して市民投票をしたら過半数がよい(お金をもらえるのなら命名権を売ってもいい)と答えたとします。アオイはどう答えますか?

アオイ(反対) もしも市民の過半数が良いと言ったとしても、100%ではないですよね? 100%が良いとしたのなら、変えてもいいと思いますが。

サンデル 全市民が賛成しないとダメですか? それは厳しい条件ですね(笑)。では99%なら?

アオイ(反対) 99%ということは、反対の人が1%いるということですよね。市の名前は重要で、大事だと考える人が1%でもいるのなら変えない方がいいんじゃないでしょうか。

サンデル アオイがその市民なら、きっとその1%ということですね。(会場笑)

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