ワークショップのファシリテーターを支援しながら、宮本武蔵の『五輪書』を見て気が付いたことがある。リーダーの役割をファシリテーターに置き換えても、そのまま意味が通じることが多いのだ。
月1回の頻度でワークショップを主催しているが、参加者の中には、自分もワークショップのファシリテーターをしたいという人がいた。先日、その人たちにファシリテーターを務めてもらい、私はそのサポートをすることにした。
横で見ているといろいろなことが分かる。岡目八目(おかめはちもく)というやつで、私はものすごく優れたファシリテーターではないのだが、いろいろと指摘をさせてもらった。
指摘事項を振り返ると、「手順」「態度」「タイムマネジメント」「スキル」の4つの観点で指摘していることが分かった。ただ、何となく消化不良だったので、もう少し観点を整理しようと、たまたま手に取った宮本武蔵の『五輪書』をパラパラとめくった。
すると、次の一節が目に飛び込んできた。
果敢(はか)の行き、手ぎわよきといふ所、物事をゆるさゞる事、たいゆう知る事、気の上中下を知る事、いさみを付くるといふ事、むたいを知るといふ事、かやうの事ども、統領の心持に有る事也。
意訳すると、こんな感じだろうか。
「仕事がはかどること、手ぎわがいいこと、どんなささいなことにも心が行き届いていること、ツールや人の効用や適性を知ること、(部下や参加者の)それぞれのやる気のレベルを見極めること、モチベーションを高めること、無理や限界をわきまえること、などがリーダーの心得るべきことである」
『五輪書』にあるこの一節は、直前に以下の文章がある。通常は「適材適所」を説いたもののようだ。
統領におゐて大工をつかふ事、其上中下を知り、或(あるい)はとこまはり、或は戸障子、或は敷居・鴨居・天井已下(いか)、それぞれにつかひて、あしきにはねだをはらせ、猶悪しきにはくさびをけづらせ、人をみわけてつかへば、其はか行きて、手際よきもの也。
訳さないが、上手な人には難しいところをやってもらえばいいし、下手な人にも必ず仕事はあると書いてある。
またその前には、本当の意味(?)での「適材適所」についても書かれている。こちらには、どんな材木(まさに「材」だ)でも使い道があり、よい大工の棟梁(統領)は、それを見極めると書いてある。
よって適材適所の話であることはもちろんなのだが、私が最初に引用した部分も適材適所の話だと思ってしまうともったいない。この部分は、リーダーの心構えについてまとめてあるととらえるのがよいと思う。