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知人がブログで紹介していたリンク先が、デマ記事だったとき。本人にそれを伝えたら、意外な言葉が返ってきました。

» 2013年02月18日 12時30分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]
誠ブログ

 こんにちは。文書化能力向上コンサルタントを本業にしつつ、原子力論考や憲法論議をするアマチュア安全保障論者の開米です。最近は写真もやっているので、こんな写真も撮っています。

 まあ、それはさておき。何の関係もない写真はおいといて、本題に入りましょう。

 今から約2年前、原発事故が起きてから間もないある日のこと。知人A氏のブログを読んでいて、ある記事が目にとまりました。

 「皆さん、ぜひこれを読んでください。そして広めてください。原発でこんなことが行われていたなんて初めて知りました。もう原発はやめなければいけない」

 と、そういうコメント付きで紹介していたリンクの先が、原子力関係では有名なデマ文書でした。「……これはまずい」と私は思ったものです。

 A氏は私の古い知人です。人間的に非常に好感の持てる人でしたし、ビジネス上でも優れた感性、判断力を持っていて実績のある人物でした。本も何冊も出していて大勢のフォロワーがいました。そういう人物が自分のブログでデマサイトの情報を広めているわけです。これはまずい。

 とはいえ、知らない人ならほっときます。しかし、かなりご無沙汰しているとはいえ、かつてお世話になったことがある人です。人間的には「いい人」なのも間違いありません。なので、ほっとくわけにはいかず、直メールでこっそりその文書がデマであることを教えました。

 しかしその後の展開は私がまったく予想しなかったものでした。

デマ文書でも構わない!?

開米 Aさん、あれは有名なデマ文書ですよ

A氏 ネットでいろいろ言われているようですが、「原発を選択しない」私の意見に変わりはないし、文書の真偽を今さら調べようもないので、記事は取消しません。

開米 文書の真偽を今さら調べようもない、……ですか。Aさんがそんなことを言うとは思いませんでしたよ。デマ情報を拡散する人物、と自分の読者にそう思われてもいいんですか?

A氏 そうではなく、私の本意は、原発についての知識をしっかり身に付けなければいけない。そっちの方が重要でしょ? ということです。今のままではあまりにもナイーブですから。電力会社や政府のいいように操られます。

 そして私はA氏を説得することはあきらめました。恐らくA氏にとって私の意見はそれほど信用がおけるものではなかったのでしょう。であれば説得しようとしても無駄というものです。私は少なくとも、「デマですよ」と伝えるきっかけは作りました。それは10年前の縁に対する最低限の義理を果たすという意味合いがありました。そのきっかけをどう生かすかはA氏の課題であって、それ以上私がどうこう言えることではありません。

自分の専門分野では文句なく優秀有能。でも……

 仮に私がA氏と直接縁の無い人間で、たまたま偶然にA氏の「デマ文書紹介発言」を目にしたとしましょう。そのとき何を感じるかというと、

 「ああ、この人は信ぴょう性の乏しい情報を拡散させる人物なんだな

 と思います。さらにしばらく様子を見ていてもし訂正がないようなら、

 「あれがデマであると教えてくれる友人知人はいないらしいな

 と思います。さらに、

 「自分で真相を調べることもしていないようだな

 と思うことでしょう。そして、

 「この分野についてA氏の言うことは当てにならない

 と考えます。

 A氏のフォロワーの中に何人ぐらい、こういうふうに考える人間がいたかはもちろん分かりません。せいぜい100人に1人ぐらいでしょう。元ネタが「原子力関係では有名なデマ文書」であるとはいっても一般の人がそんなことを知るわけはないので、100人に1人でも多いぐらいで、実際は1000人に1人ぐらいだと思います。

 大したことないっちゃ大したことない数ですが、その「100人に1人」ないし「1000人に1人」の、A氏への信用は間違いなく落ちます。

 それを防ぐために私は「あれはデマですよ」とこっそり教えました。そこで私としては「え、そうなんですか? デマだという根拠は何ですか?」と、根拠を確認する行動があることを予想していました。主張には根拠を確認する、これが有能な社会人としてのあるべき姿ですし、A氏はそういう基本習慣をもった人物だと思っていたわけです。ところが実際には、

A氏 「原発を選択しない」という私の意見に変わりはないし、文書の真偽を今さら調べようもない。

 という返事でした。その返事を見ながら私はあ然としていました。自分の専門分野については文句なく優秀有能な人物でも、このテーマになると理性に欠けるトンデモ屋さんになってしまうのか……と。

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