一見すると普通のタブレットのように見えるが、その開発コンセプトはこれまでに登場したどのタブレットとも異なる「enchantMOON」。“紙の再発明”をうたうenchantMOONは、ユーザーにどんな新しい世界を見せてくれるのか。手帳評論家でデジアナリストの舘神龍彦氏が内覧会で実機を試した。
iPadの登場以来、タブレット端末はすっかりなじみのものになった。スマートフォンで慣れ親しんだ操作法で利用でき、情報を閲覧するだけでなく、簡単な編集作業も単体でこなすことができる。最近ではBluetoothキーボードと組み合わせた活用も定着してきた。
そんなタブレット市場が成熟しつつある中で登場した「enchantMOON」(ユビキタスエンターテインメント製)は、かなり型破りなタブレット端末だ。米ラスベガスで開催された家電製品の展示会「International CES」でデビューしたこの端末は、異色ともいえる設計思想が注目を集め、同社のブースは大盛況だったという。
コンセプトの軸になっているのは“紙の再発明”。これまでのタブレットは“紙にペンで書く”という作法をベースに開発されたわけではなく、こうした使い方は数多あるタブレットの1機能として提供されているに過ぎなかった。これに対してenchantMOONは、“紙とペンの作法”を重視し、それをタブレット上で再現することにこだわった。紙を広げてそこにアイデアを書き込み、重要なところを強調したり丸で囲ったりしながらアイデアを深める――。こんな手書きならではの特性や高い表現力を、違和感なく使える形でタブレットに取り入れようとしているのだ。
製品の紹介ページを見ると、デジタイザーペンが付属することも含め、ペンを使って手書きすることに開発者が並々ならぬこだわりを持っていることが伝わってくる。実物を見る前から、この端末にはどんな機能があって、何ができるのか、そもそもiPadに代表される既存のタブレットの枠組みからどれだけ自由になっているのかという期待が高まる。事前情報から得られた印象は、“手書きダイナブック”みたいなものではないかということだった。
ダイナブックは、米科学者のアラン・ケイ氏がパーソナルコンピュータの理想形として提唱する概念。本のように持ち運べるサイズで、映像や音声データの入出力装置を備え、人がより創造的な思考を深めるのに役立つ存在となるものを想定している。enchantMOONのデジタイザーペンによる操作や、シンプルなインタフェースを通じて“誰もが使えるデジタル記録再生装置”であろうとする姿からは、ダイナブックに一脈通じるものが感じられたのだ。
端末自体は一見すると、普通のタブレットのように見える。サイズはiPadにやや近く、可動型のハンドルがついているぶん、やや無骨な印象を受ける。OSはAndroidに独自のカスタマイズを施したものだ。
しかし、その操作法は独特だ。標準装備のデジタイザー(ペン)は、単に文字や絵を書くだけではなく、メニューの呼び出しにも利用する。例えばペンで“camera”と書き込み、その文字の周辺をぐるっと囲むとカメラが起動する――といった具合だ。入力した文字列をデバイス側が認識して応答し、アプリケーションを起動させるというプロセスは、OCR的な文字の処理を経て機能を呼び出すプロセスを別にすれば、コマンドプロンプトから文字列をタイプして動作させるMS-DOSのPC的にも見える。形こそタブレット型だが、その発想は従来型のタブレットとはまるで異なっているのだ。
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