話しかけられたら、手を止める。相手の方に向きなおる。どんな話であっても、笑顔で応じる。「でも、だけど」という逆接の接続詞で応じず、「なるほどね」「そうなんだ」と受容的な聴き方をしてみた。ミスの報告でも険しい顔などせず、まずは状況を穏やかに聴き、判断したりアドバイスしたり指示したりした。
何はともあれ、どんなことでも話せる状態を作ろうと意識したのだ。
それから3カ月。チームはどう変わったか。
若手も中堅も、このリーダーにはどんなことでも臆せずホウレンソウするようになった。状況を早め早めに聴くことができるため、的確な指示やアドバイスも出せる。それにより、ミスを未然に防ぐことができるようになり、大量発生していた“ケアレスミス”が結果的にはほぼなくなったというのだ。
「ミスをしないようにチェックして!」と言うよりも、「どれほど顧客に迷惑をかけるか理解しなさい」と言うよりも、メンバーが話しかけやすい人、会話しやすい相手になろうと態度を変えてみただけで、本来の課題だった「ケアレスミスの多発」が解決してしまったというのは非常に興味深い話だ。
この例から学べることがある。「ホウレンソウしなさい」と部下や後輩にはよく言うけれど、果たして、私たちは、ホウレンソウしやすい相手になっているだろうか。
さて、マズイ状況を知らせてきたメンバーにどんな声を掛けるかというのは、次にミスが起こった時の若手の行動を方向づけるはずだ。
恐る恐るミスを報告したところ、ものすごい剣幕で怒鳴られたり、状況も聴いてくれず、頭ごなしに一方的な叱責をされたりしたら、メンバーも腰が引けて、次からはまた言いづらくなる。
あるリーダーは、「悪いニュース」を報告された時に自分が発するセリフには気をつけていると言っていた。
「言いづらいことを言ってくれてありがとう」
こう言われて、メンバーは「え? 」とびっくりするらしい。叱られると思って身を縮めていたのに、“ありがとう”と言われれば驚くだろう。
「ありがとう」の後、状況を詳しく聞き、一緒に解決方法を考えるのだという。このリーダーは「実際には、カーっとくることもあるんですけど、それをストレートにぶつけても問題の解決にならないので、まずは、“報告”してくれたことにありがとうと言うようにしています」と話してくれた。
もし、たびたびミスを隠す人がいたならば、その時は、こんなセリフも効くかもしれない。
「ミスがいけないのではない。ミスを隠すことがいけない」
ミスはないに越したことはない。しかし、人間だからどうしたって何らかの間違いを犯してしまうことがある。ミスをできるだけ早くみんなのものとして共有し、素早く対応することのほうが大事だ。そのためには、「話しても大丈夫」という安心感を与えられるようなムード作りが欠かせない。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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