職場のメンタルヘルス問題を解決するには、「相談したい。でも、できない」「相談にのってあげたい。でも、できない」実情を理解した上で、どんな対策ができるのかを考えていく必要があります。
1971年生まれ。経営者、教師、コンサルタント、コーチ、カウンセラーなど、リーダー層を支えるビジネスコーチ。人材育成コンサルタント。
自身がプレッシャーの多い職場で精神的に追い込まれる中、リーダーを任される。人や組織を育てるには、マネジメントの手法だけでは太刀打ちできないことを痛感。優れたリーダーたちが使う卓越したコミュニケーションスキルを学び、実践。チームの変革に成功する。実践の経験から、難しいコミュニケーションスキルを誰もが現場ですぐに使えるようにした独自の手法「トライアングルコミュニケーションモデル」を考案。実践的なコミュニケーション方法を伝えるコミュニケーショントレーナー。
米国NLP協会認定NLPトレーナー、NPO法人しごとのみらい理事長。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』(こう書房)、『イラッとしたときのあたまとこころの整理術―仕事に負けない自分の作り方』(ベストブック)がある。
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最近、企業のメンタルヘルス研修に関する相談をよく受けます。その中で担当者から多く聞かれる声が「これまでも何度かメンタルヘルス研修をしてきたが、効果が表れているように思えない」というもの。
例えばある企業では、保健師を招いてメンタルヘルス研修をしたそうです。「最近、憂うつな日が続いている」「食事がおいしくない」「眠れない」「疲れやすい」などの項目が並んだチェックリストで現在の状況をチェックし、「○○点以上のときはうつの可能性があります」「悩んだときは他の人に相談しましょう」「気になる人がいたら話を聞いてあげましょう」「無理をしてはいけません。時々は体と心を休めましょう」「変だと思ったときは病院に行きましょう」などの指導を受けたそうです。
それに対して、研修担当者はこう言っていました。「保健師の言っていることは頭の中では大事なことだなと思います。しかしチェックリストの項目は、普通に仕事をしていれば誰でも抱くようなことばかりです。また、誰かに相談することも大事だと思うのですが、なかなか相談できないのが実際のところ。知識としては分かるのですが、結局、何もできないんです……」。
マネジメント層には、「部下の変化を観察しよう」「部下の話を聞こう」と指導されたそうです。しかし、「あれ? あいつ、最近ちょっと変だな」と気がついても、「大丈夫? 話を聞こうか?」と声をかけるのはなかなか難しいとのこと。
職場のメンタルヘルス問題を解決するには、「相談したい。でも、できない」「相談に乗ってあげたい。でも、できない」実情を理解した上で、どんな解決策があるかを考えていく必要があります。
「相談したい、でも、できない」環境が先にある場合、同僚や上司には相談できないので、自分で自分をマネジメントしていく必要が出てきます。ここでは簡単にできるセルフコミュニケーションをいくつか紹介します。
仕事をしていると、自分の本心よりも仕事を優先させることがあります。例えば夜に顧客との接待があるとき、本心は行きたくないのに「仕事だからしかたない。行くか……」と仕事を優先させます。
しかし本心よりも仕事を優先してばかりいると、本心を押さえることが習慣になってしまい、本心に気が付きにくくなることがあります。本心に気が付きにくくなると、ストレスや自分の変化にも気が付きにくくなってしまいます。
そこで、瞬間、瞬間でどんな感情を抱いているのかに敏感になりましょう。わずかな感情変化は、あなたの本心を教えてくれます。
だからと言って、「仕事よりも本心を優先しましょう。嫌なことは断りましょう」と言いたいわけではありません。時には仕事を優先せざるを得ないこともあるでしょう。しかし多くの場合、自分の本心に気が付くことなしに、無意識に仕事を優先してしまいます。まずは自身の本心に気が付くだけでも、今の自分の状態が分かるようになってきます。
いろいろな不満があるのに、それを抱えたままにしておくとストレスを蓄積していきます。そこで時々、たまった毒を外に吐き出しましょう。
周りに話を聞いてくれる気心知れた仲間がいれば、話を聞いてもらってください。しかし、そのような人が近くにいない場合も多いでしょう。また、気心の知れた仲間なら大丈夫ですが、いつも不満ばかりを口にしていると周りの人に嫌な思いをさせるだけではなく「あの人は批判的な人だ」というレッテルを張られてしまう危険もあります。
そこで、誰にも迷惑が掛からないようなところで毒を吐きだすのがオススメ。車の中なら、誰にも迷惑を掛けることはありません。大声で「○○のヤツ、ふざけんな!バカヤロー」と叫んでみましょう。意外とスッキリできます。
周りの状況にストレスを抱くということは、その背景に「本当は○○だったらいいのに……」という気持ちが必ずあります。理想があるからこそ、そうなっていない現実にストレスを抱くわけです。そこで、ストレスを抱いたときは「本当はどうしたいのか?」を繰り返し考えてみてください。
例えば、私は以前、話を聞いてくれない威圧的な上司にストレスを感じていました。そのとき、次のように考えてみました。
「上司がいつも威圧的で話を聞いてくれない」
(本当はどうしたいのか?)→「上司に話を聞いて欲しい」
(上司が話を聞いてくれたら、本当はどうしたいのか?)→「自分の意見を言いたい」
(自分の意見が言えたら、本当はどうしたいのか?)→「問題を改善したい」
(問題が改善できたら、本当はどうしたいのか?)→「仕事の成果を出したい」
(仕事の成果が出たら、本当はどうしたいのか?)→「チーム一丸となって喜びたい」
威圧的な上司にストレスを感じる背景には、「チーム一丸となって喜びたい」のような前向きな気持ちがあることに気づいた瞬間、気分がフッと軽くなったのです。それ以降、ストレスを感じたときは、「この気持ちを抱かせる前向きな背景は何なのか」「何が、この気持ちを抱かせるのか」を考えるようにしています。
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