吉田 2つ目は、「職場が人が育つ場」であることが重要です。やはり会社がきちんと人の育つ場であるために、そこにコストをかけるべきですね。職場そのものが本音を言い合えて、声を掛け合える場であることが重要ですし、考えて行動することを求められる場であることも重要です。
先日ある会社で経理部門の人に会ったのですが、ほとんど職場の会話がありませんでした。まさに「会社に来てパソコンに向かって終わる」という生活を5年続けている状況です。でも本来は近くの席の人と、基本的なところですがきちんとあいさつをしたり、辛そうにしていたら「大丈夫?」「手伝おうか?」みたいに声を掛け合ったりすべきですよね。やはりそうした暖かさってすごく重要で、精神的な支援があるとないとでは全く違うんです。
また、40、50代になっても指示をされたことしかできない人がいるんですよね。それまで指示された仕事しかやってこなくて、40代になって初めて「考えて仕事をすることが重要だ」と言われたりします。
先日ある部品メーカーさんでは「うちの会社は課長が企画する人で、課長以下は指示に従って動くのが特徴です」と言っていました。40歳までそういう状況が続いていて、いきなり「考えなさい」と言われても、なかなか難しいのが正直なところです。
新入社員で入ったときはやはり覚えなくてはいけないことが多いので、言われた通りにやるのはすごく大事です。しかしそれを5年、10年続けてしまうと、さすがに言われたことしかできなくなってしまう。ですので育成する側は途中できちんと「本当はこれどう思う?」とか、「自分で考えてやってみて」と、育成の仕方を切り替えていかないと、部下は指示通りにしか動けないし、指示通りにしか動かなくていいんだと思う人になってしまいます。結果、その部下は気が付いたら世の中で通用しなくなり、ある年代になったら「それじゃあダメなんだよ」といきなり言われてしまうのです。ですので、自分で考えさせる訓練を職場がもっとさせてあげてほしいと思います。
上口 まとめると(1)20代のうちから自分に自信を持てる経験を多くさせること(2)職場そのものが人が育つ場として機能するように、指示待ちではなく本人に考えさせる機会を与えること、この2点が重要ということですね。
吉田 はい、そうです。結果的には、本人の「やりたいこと」を見い出すことが目的になるのですが、そのために上司や近くにいる人は話を聞いてあげたり、何か仕事をやらせてみたりしてあげてください。相手によって対応は変わりますが、そういう人にはやはり自ら考えて行動をする、その支援ができる上司が近くにいてほしいと思います。
会社規模で考えれば、そうした人材配置も含めて人を育成する環境を整えなければいけません。世の中には「そもそも人材育成とは何か」が分からなくなっている会社もあります。そうした中でリーダーシップ開発のようなことが非常に重要な要素になってくると思っていますし、今一度職場作りを考えることに目を向けることが実は本質なのです。
上口 ありがとうございます。最後に、今まさに「自分はぶら下がり社員かも」もしくはそうした部下を抱えている上司にメッセージがありましたらお願いします。
吉田 ぶら下がり社員の問題は、本人と職場が違いに責め合う状態になりやすいんです。本人は「職場が変わらなければいけない」と思い、職場は「本人が変わらなければならない」と思いがちです。そうすると、変わらない相手に対して諦め感が出てきます。本来はどちらも変わる必要があります。ですから、本人は「職場が変わらなくったって自分が変われば良い」と思っていることが大切ですし、職場は「本人じゃなく、職場が変われば本人も変わってくれる」という姿勢でいると、お互いにハッピーになれます。
客観的な立場からすると、本人が変わろうと思えば本当に変われます。そしてその可能性を信じて自分で一歩一歩進んでいってください。自分が変わってもどうせ上司は変わってくれない、という考えは捨てましょう。
上司は上司で、あいつが受け身だから悪いんだというスタンスはやめてください。あなたが変われば、部下もきっと変わっていきます。
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