こんな例もあった。
新入社員のOJT指導にあたる「OJTトレーナー」という立場の方が、「新人とは月に1回面談をしている。面談記録シートには、ボクが話したことも新人に書いてもらっている。直接会話はしたのだから、記録は本人が書いてもいいはずだし」と言う。
当の新人と話すと「先輩がとてもお忙しそうなので、先輩が記載する欄もボクが書いているのですが、本当は先輩に書いていただきたいのですよね」と困ったような表情で言う。
結局、互いの理解がかみ合っていないのだ。
たまたま、両方の言い分を耳にする人間がいると「状況や出来事の捉え方もそれぞれで違うものだな」と分かるけれど、当人同士にはそこが分かっていないケースは非常に多い。
だが、互いが状況をどうとらえ、それぞれが何をどう考えて、どう行動しているかを理解し合わないと、互いの言い分はすれ違ったままになる。こういう行き違いに関して、上司などの第三者が介在できれば、「互いの言い分」を理解し合うように仕向けられるだろうが、それが期待できないケースもあるだろう。そんな時は、とにかく、当事者同士がきちんと対話するしか方法はない。
「私の意図はここにある」
「私としてはこう感じる」
「私はこの状況をこう捉えている」
こういったことを語り合えれば、多少は誤解を減らせるはずだ。
「私があなたに期待していることはこういうことだ」「だから、あえて口を出さずに任せているのだ」といったリーダーとしての思いを伝えてみる。
メンバーは、「こういう状態を納得したので、説明をしてほしい」「この仕事のいきさつを理解したい」などとメンバーとしての困惑をリーダーに伝える。
この時、可能な限り相手に配慮しつつ、自分の思いや考えをきちんと表明することが大切だ。その一番簡単な方法は、「私は……思う」と自分主語で話すことである。
「なんで、主体的に動かないのか」「どうして説明してくれないのか?」と「あなた主語」で表現するのではなく、「私主語」で話す。
「私があなたに期待していることは……」も「状況を説明してほしい」も「私主語」である。
こうやって、互いの思いや言い分、意図、期待をまずは述べ合う。それを聴きながら、相手の見方、相手の考え方を理解するよう努める。相手の言葉に耳を傾ければ、自分の言葉も相手が聴いてくれるようになる。その結果、理解が深まれば、例に挙げたような食い違いも少しは解消できるだろう。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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