お仕事を通して、子どもたちの中では何が起こっているのでしょうか?
1つ目は、脳の発達に不可欠な刺激です。一般的に、手足や指先の細やかな動きは脳神経の発達と密接に結び付いていることが知られています。ハーバード大学のアルバロ・パスカル・レオーネ教授の実験では、被験者に簡単なピアノの曲を学習させ、1週間みっちり練習させた後で脳の変化を調べてみました。するとピアノの演奏に必要な指先に連動する脳の領域が非常に大きくなっていたことが分かりました。
特に幼児期においては五感を使って体を動かすことが、脳発達を促します。ベビザラスに指先を使う知育玩具が山ほど置いてあるのも、そうした理由によるものです。
モンテッソーリ教育でも指先を使う作業は、特に奨励されています。しかし、それらはピアノを演奏するといった高等なものではありません。折る、貼る、切る、縫う、といった原始的なものばかりです。これらの3次元的な空間を把握しながらの指先の動き、複数の動作を組み合わたりする体験は、テレビやインターネットといった2次元空間の学習では得られない脳への刺激があるのです。
2つ目は、作業を通じたロジカルシンキングの取得です。ロジカルシンキングの基本は、ある秩序にのっとって物事を整理することにあります。複雑な問題でも、分解して原因を探ることができる能力。雑多で断片的な情報を取捨選択し、まとめることによって、単純化する能力。これは大人になって身に付ける特別な思考スキルではありません。子どもが遊びを通して学ぶことのできるものばかりです。
モンテッソーリの「お仕事」では、ものを大きさや種類で分けたり、また同じようなもの集めたり、大きさや長さを比べたり、いろんなものを組み合わせて新しいものを作る、といったロジカルシンキングに欠かせない「分解」「グルーピング」「比較」「統合」といった要素がすべて含まれています。
3つ目は、いわずとしれた「自律」と「集中」です。モンテッソーリが子どもに提供する機会は、前述した通り、
です。自分で機会を選択し、集中してやりきることです。この「自律」と「集中」をコントロールできる能力を身に付けたことが、後の成功につながっているのです。このスキルがその人が生涯何をやろうとも、ライバル以上に成果を出すことのできる秘密なのです。
早期に勉強やお稽古事をやらせたとしても、それが自発によるものでなく親や先生から無理に薦められ、面白みが発見できなくて集中できないとすれば「自律と集中」を身に付ける貴重な機会を逸してしまうことになるわけです。
実際、モンテッソーリ教育を受けたこどもたちは、その後、親が驚くような自律性と集中力を発揮して、たくましく育っていきます。日本におけるモンテッソーリ教育の第1人者である相良敦子氏の自著『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち―幼児の経験と脳』によれば、モンテッソーリ教育を受けた子どもたちには、次のような特徴が見受けられるそうです。
まさに理想の子ども、いや、人間のあるべき理想的な姿ではありませんか? こういった素養は大人の教育には生かせないものでしょうか?
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