テクノロジーと人間が一体となる時代、知の巨人「梅棹忠夫」が予見していたもの21世紀版「知的生産の技術」キックオフ(2/2 ページ)

» 2014年01月15日 12時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
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情報科学と文明学が融合する

 東京大学でヒューマンインタフェースやAR(拡張現実)を研究する暦本純一教授は、中学生の時に父親の本棚にあった『知的生産の技術』を読んだことが、梅棹忠夫に触れるきっかけになったと話す。多くの読者と同様に、カードやノート作りに「ハマった」という暦本氏は当時のカードを披露しながら、「いまこの分野に自分が進んだのも、その影響が大きい」と笑う。

 「『知的生産の技術』には、既に現代のユビキタスコンピューティングに通じる考え方が述べられている」と暦本氏。コンピュータが生活の中に偏在するというコンセプトは、得てして「あらゆる場所でコンピュータを活用する」というイメージにつながりがちだが、その本質は「Calm Technology=静かな技術」にあり、意識することなくコンピュータが生活に「溶け込む」点にあるという。つまり、そこで目指されているのは「効率」ではなく、梅棹氏が述べているように「人間を人間らしい状態に常に置いておくため」の「秩序と静けさ」なのだ。

 自身の研究(ネット上でも話題になった「スマイルで開く冷蔵庫」など)を紹介しながら、ナレッジ(知識)からソマティック(身体的感情)に軸足が移ってきたと暦本氏。それは、梅棹忠夫氏が『情報産業論』(初出は1963年)で書いた産業発展のステップ(農業→工業→情報産業)から、今度は逆方向にコンピューティングがその領域を拡げているのが現状ではないか、というわけだ。

 「コンピュータそのもの」が研究対象でIT産業の主役であった時代から、例えばスマートモビリティや、ヘルスケア・農業の分野に逆行し、その領域が広がっている、というのが暦本氏の見立てだ。

 「人間の現実的な在り方は、人間と装置で形成する1つの系、システムである」という梅棹氏の講演録(「文明学の構築のために」(1981))を紹介しながら、暦本氏は「梅棹氏は昨今注目を集めるビッグデータ、スマートグリッドなどの到来を予見していて、テクノロジーと人間が一体となったものが文明であり、その行く末を考えるべきだと主張していた」と指摘する。情報科学と文明学が融合する時代に私たちは生きているのだ。


 研究者やさまざま業界からのビジネスパーソン、約30人が集まったキックオフイベントは、この後も参加者の自己紹介や意見交換が積極的に行われた。

 このイベントは、今後も月1回のペースでブレーンストーミング(アイデアソン)を行っていく。梅棹忠夫氏の知的生産の技術を中核にITを駆使する若い世代も加わりつつ、知恵を出し合い、ネットワーキングを通じて発展させていきたいという。Facebookページを通じて案内を行っていくということなので、関心のある読者はまずは登録してみてほしい。

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