想定するターゲット層に腰を据えてサービスを試してもらえる上、実際に使った上での意見も集めやすい――。コワーキングスペースの“メディアとしての価値”に企業が注目しはじめている。
すきま時間の仕事場、起業の際の仮オフィス、アイデアを出し合うコミュニケーションスペース、打ち合わせ用の会議室、集中して仕事をするための書斎――コワーキングスペースは、さまざまな顔をもつ空間だ。
ワークスタイルの多様化に伴ってニーズが高まっているが、一方で店舗間の競争が激化しており、特徴を打ち出せずに撤退する店舗も少なくないという。
こうした中、コワーキングスペースをメディア化することで、特徴を打ち出していこうという流れがある。店の特徴がオーナーの個性や人脈、立地、サービス、作業環境といった要素で定まりがちな中、新たなアプローチとして注目を集めそうだ。
利用者の属性をうまく生かして、コワーキングスペースのメディア化を図っているのが渋谷のコワーキングスペース、LightningSpotだ。
渋谷駅から約30秒という立地のよさから、利用者はビジネスパーソンやコンサルタント、マーケター、起業家が多いとオーナーの中川亮氏。そのため、“協働しやすいクリエイティブな環境”というよりは、“仕事に集中しやすく、勉強会などで使いやすい環境”の提供を目指している。
時間や場所にとらわれない働き方を実践し、仕事を効率化するためのアイデアやサービスを取り入れることに積極的な利用者が多く、中川氏自身がビジネスに役立つWebサービスを紹介するサイトを運営していることもあって、LightningSpotは自然と“仕事に役立つ情報が集まる場”になっていったという。
そこに注目したのが、ビジネス系サービスを提供する企業だ。コワーキングスペースなら腰を据えてサービスを試してもらえる上、実際に使った上での意見も集めやすい――。こうした“メディアとしての価値”に注目した企業から、キャンペーンの話が舞い込むようになった。
2013年5月には、渋谷にある4店舗のコワーキングスペースと連携してWindows AzureとWordPressのワークショップイベントを展開。同11月にはビジネス系コワーキングスペース4店舗、名刺のデジタル化サービス「Eight」を展開する三三との連携で、“紙の名刺のスキャンし放題”サービスを提供した。いずれも来店者に好評で、キャンペーンを行った企業の満足度も高かったという。
「コワーキングスペースは、これからの働き方を先取りする人たちが集まる場所。そこに集まる人の声を聞けば、新たな働き方をするのに必要な機能、サービスをどんな方向性で開発すればいいかが分かる」(中川氏)
次に中川氏が目指すのは、コワーキングスペースを“仕事と人を結びつける場”にすることだ。コワーキングスペースは、フリーランスのエンジニアや技術者が仕事をする場として使うことも多い。作業をする場所で、次の仕事や空き時間にできる仕事を探せるようにするのが狙いだ。
最近では、こうした仕事探しにクラウドソーシング(Webを通じて人と仕事をマッチングするサービス)を使う人も増えているが、こうした発注スタイルには課題も残る。例えば仕事の依頼者が、“会ったことがない人に仕事を任せることを不安に思う”のもその1つだ。「クラウドソーシングに現時点で少し“足りていない”部分を補う場として、コワーキングスペースを活用できるのではないか」というのが中川氏の考え。“仕事の依頼者と受託候補者が気軽に会える場所”にすることで、発注のハードルを下げられるのではないかと話す。
ここに来れば仕事がはかどるだけでなく、新たな仕事や便利なサービスも見つかる――。中川氏が目指すのは、そんな“ビジネス情報のハブ”として機能するコワーキングスペースだ。企業もこうしたスペースの“メディアとしての価値”に注目し始めており、今後のコラボレーションの形に注目が集まる。
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