学生のうちに、とことんがんばった経験が何か1つでもあれば、仕事の世界に入ってもへこたれません。まずは「自分はこれをがんばる」と強く心に決め、実際に努力することが大切なのです。
本連載は、金井壽宏著、書籍『「このままでいいのか」と迷う君の 明日を変える働き方』(日本実業出版社)から一部抜粋、編集しています。
「この仕事は、自分に合っているのだろうか?」
「今のような働き方が、いつまで続くんだろう……」
迷いながら働く人のために、キャリア研究の第一人者が、仕事の本質から会社との付き合い方、キャリアの捉え方まで、読者と一緒に考えていきます。
長い仕事人生にはアップダウンがつきもの。ワクワクしながら前向きに取り組める時期もあれば、失敗や思わぬ異動に落ち込む時期もあるのが当然です。
本書では、一般の企業で働く若手14名へのインタビューをもとに、仕事の「モティベーション」、そして「キャリア」の悩みから抜け出し、成長していくための考え方を紹介します。
・いったい自分は、何のために「働く」のか?
・「組織」とどこで折り合いをつけるか?
・これからの「キャリア」をどうデザインするか?
・もっと仕事に夢中になるためには?
など、キャリアの入口、あるいは途中で立ち尽くしている人が、自分なりの「働き方」をつかむための1冊です。
前回のNさんの事例でもう1つ分かるのは、「訴えること」の重要性です。
企業の中で自分の意見が通らないとき、希望がかなわないときには「くさらないこと」と同時に、「訴えること」が大切です。ここでも「われわれは自分1人で仕事をしているわけではない」という発想が大事になります。
まず自分の要望がかなわないからといって、ふてくされた態度で仕事に取り組んだり、周囲の足を引っ張るようなことをしても、何の意味もないどころか自分の評価を下げるだけです。
だからどうにかして現状を変えたいならば、上司や周囲に「訴える」ことが必要となってきます。そしてその訴えが認められない、どうしても状況を変えられないとなった場合には、その場から離れることを検討する必要も出てくるでしょう。
このことについて、開発経済学でも名高いアルバート・O・ハーシュマンという学者は、『離脱・発言・忠誠――企業・組織・国家における衰退への反応』という組織論としても興味深い本の中で、顧客がある企業の商品の購入を止めたり、メンバーがある組織から離れていく「離脱」と、自らの不満を直接表明する「発言」、そのままの状態を続ける「忠誠」について紹介しています。
働く場に問題がある場合は、ただ単にその場に忠誠心を持って黙って勤務を続けるだけでなく、労働者が「発言」をして組織の改革をするのが「発言」のメカニズムであり、それでも動かない場合は、自分にとってよりよい職場を求めて「離脱」することが必要です。
雇用側も、そのような声を無視して働かせ続けることは、結果的に組織の衰退を招くことになり、優秀な労働者を失うかもしれないとすれば、それが組織を改善するモティベーションへとつながるはずです。
このように「発言」と「離脱」が双方ともに健全に機能しているとき、その組織は良好なパフォーマンスを発揮する、とハーシュマンは説明します。
Nさんの場合、「このままでは嫌だ、自分が新規事業をやる!」という声を上げたことに対して、組織がきちんと応えてくれました。もしNさんがそのまま声を上げずに、ずっとオペレーターの仕事を続けていたとしたら、彼女はいつしか辞めることを決意していたかもしれません。
自分のいる組織が、きちんと「発言」と「離脱」の機能を持っているか。もしないとするならば、その組織自体に問題がある可能性もあります。
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