Nさんは、新規事業のスタートを通じて、「自分ではじめたビジネスだからこそ、誰にも責任を転嫁できないし、自分ががんばるしかない」という気持ちを、自然に持つことができました。そしてその「自己決定」によって、大きく成長することができました。
人が大人になっていく上で、この「自己決定ポイント」が、極めて重要な意味を持つと感じています。
大学で学生に接していると、優が7〜8割を越えるような優秀な学生ほど、学業以外に何か打ち込んでいるものがあることに気付き、それはすばらしいことだと思うようになりました。優秀な学生は何か他にやりたいことを犠牲にしているのではなく、音楽やスポーツ、英語など、他の領域でも打ち込んでいることが多いのです。
ちなみに、神戸大学経営学部では、優が7〜8割を越す学生には「経営学高度教育サポート制度」という名のもとに、希望する教授から直接的に個人教授、あるいは2〜3人での特別ゼミを開いてもらえるという制度があります。
高度教育サポートの学生たちを見ていると、学業以外に何か一生懸命打ち込んでいることがあるからこそ、勉強も自然にがんばることができているように感じられます。
私は高度教育サポート生に限らず、ゼミ生や親しく接する学生に対して
「学生のうちに何でもいいから、人に言われてではなく、自分でこれをやると決めて、途中で投げ出さずにかなりの程度熟達するまでとことんがんばれる人は、惚れ惚れするほどすばらしい」
と、いつも伝えています。その経験が1つでもあると、仕事の世界に入ったときにもそれが自分の自信となるからです。
ですから、金井ゼミに入ってほしい学生を選ぶ際にも、これまでの人生で何をとことんがんばって、何を成し遂げてきたのか、という点に注目します。
ジャンルは何でもいいのです。一見すると地味で、どちらかというとおとなしそうな学生でも、何かに打ち込んでいる人は、芯には強いものを持っています。
短い時間で自分を魅力的に伝えられる人もいれば、長い時間を過ごしているうちにじんわりとよさが伝わってくる人もいますが、打ち込んでいるものを聞くと、そういう印象に左右されずに選ぶことができるのです。ゼミにそういう人がたくさんいると、とても活性化しますし、議論が盛り上がります。
大学の4年間で、あるいはゼミに入ってからのより凝縮した2年間で、ゼロからはじめても相当のレベルに達することができることはたくさんあります。金井ゼミに入ってくれる学生たちを見ていて、そういう迫力にこちらが元気付けられることもよくあります。
例えば、剣道に4年間没頭して、三段まで昇段する人もいました。ある学生は大学ではじめて社交ダンスを習い、日本一になりました。バンドを組んでボーカルとしてステージに立ち、曲づくりをはじめた学生が、テレビの歌番組の「ミュージックステーション」に出演するまでに熟達したケースもあります。
何かとことんがんばった経験が1つあれば、仕事の世界に入ってもへこたれません。まずは「自分はこれをがんばる」と決めることが大切なのです。
「自己決定ポイント」と私は呼んでいますが、何をとことんがんばってみるか、ということについて自分で強く決める。そして、実際に努力してみる。その経験が自分だけのゆるぎない自信をつくってくれます。
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