社会人になりたてのうちは、実際に仕事をするとその現実の厳しさに驚きます。しかし、それを乗り越えてこそ一人前。組織が求める「加入儀礼」をくぐり抜けてはじめて存在が認められるのです。今回は、2つの加入儀礼について紹介します。
本連載は、金井壽宏著、書籍『「このままでいいのか」と迷う君の 明日を変える働き方』(日本実業出版社)から一部抜粋、編集しています。
「この仕事は、自分に合っているのだろうか?」
「今のような働き方が、いつまで続くんだろう……」
迷いながら働く人のために、キャリア研究の第一人者が、仕事の本質から会社との付き合い方、キャリアの捉え方まで、読者と一緒に考えていきます。
長い仕事人生にはアップダウンがつきもの。ワクワクしながら前向きに取り組める時期もあれば、失敗や思わぬ異動に落ち込む時期もあるのが当然です。
本書では、一般の企業で働く若手14名へのインタビューをもとに、仕事の「モティベーション」、そして「キャリア」の悩みから抜け出し、成長していくための考え方を紹介します。
・いったい自分は、何のために「働く」のか?
・「組織」とどこで折り合いをつけるか?
・これからの「キャリア」をどうデザインするか?
・もっと仕事に夢中になるためには?
など、キャリアの入口、あるいは途中で立ち尽くしている人が、自分なりの「働き方」をつかむための1冊です。
実際に仕事をするとその現実の厳しさに驚いて、いわゆる「リアリティ・ショック」と呼ばれる衝撃を受けることがあります。
世間でどんなによい会社、よい組織と呼ばれている集団でも、そこに入れば必ずといってよいほどリアリティ・ショックを受けます。学生のときには自由気ままに生きても誰にも怒られず、毎日のように寝坊していたのが、社会人になると毎朝きちんと起きて、満員電車に乗って通勤しなければならなくなります。
またそれまでは先生や親の言うことも「はいはい」と受け流していれば済んだのが、上司からの叱責や注意は聞き流すわけにはいかず、その通りに従うことが求められます。
これは学生にとって、非常に大きな価値の転換です。中にはその転換になじめずに、会社を短期間で辞めてしまう人もいます。
辞めるまでは至らなくても、学生が入社してすぐに味わうショックには非常に大きなものがあります。働く人のイキイキ度を探る研究会(APO研)のメンバーで、大手の住宅産業の会社で働いていた人に、「先生は働く中で、虫けらのような扱いを受けたことはないですよね」と言われたことがあります。私はそれを聞いて驚き、「今、お勤めのような大手企業でもそういう経験をするの?」と聞いたものでした。
もちろんこのような衝撃は、一人前の内部者、仲間として貢献できるようになったときには、乗り越えているのがふつうです。
しかし、乗り越えるためには、その組織が求める「加入儀礼(イニシエーション)」をくぐっていかなければなりません。加入儀礼とは、文化人類学の用語で、人間の集団には必ず見られる「子どもから大人へと移行するときの儀礼」のことを指します。
そこを越えれば本格的に、集団のメンバーの一員として見られるというハードルを課すことで、子どもと大人を線引きします。親から一定期間離れて生活させたり、割礼などの苦行を課したり、さまざまな試練が与えられそこをくぐることで成人として認められるわけです。
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