今回のケースでは、今後も決算のたびに見積計上額の計算が必要になることがわかっていましたから、見積計上額を自動的に計算するExcelシートを、最初から面倒がらずに作成しておけばよかったのです。
経理は、目の前に電卓という便利な道具があるうえに、それを使うことに慣れているため、電卓を使って数字を計算しがちです。ところが、電卓では計算をした経過が表示されません。計算結果のみが表示されます。計算結果が合っているかどうか検証するために、みなさんは電卓に同じ数字を2度入力してチェックすることを日常的に行なっていると思います。
単純に足したり、引いたりするだけの作業なら、電卓で2度集計をすることで間違いに気づけます。ところが、計算のプロセスそのものが違っている場合には、電卓の2度入力のチェックだけでは気づくことができません。そこで、計算のプロセスを他の人が見てもわかるように残しておくと、異なる視点から検証することができます。
スタッフに仕事をさせる場合には、私が確認のために計算のプロセスを追いかける必要があることから、必ずそのプロセスがわかるように、エクセルシートを作成してもらいます。それを今回は自分がやるからと怠ってしまったので、手痛いしっぺ返しを受けました。
自分が間違えたから開き直るわけではありませんが、経理の仕事をしている場合には、間違いを自分のせいにはせず、「仕組み」のせいにしましょう。間違いをした本人が悪いのではなく、間違いを生じさせてしまった仕事の仕組みを責めるべきなのです。
経理の間違いは時には会社に重大な影響を及ぼします。経理に携わる“人”の能力にのみ頼っていては、心許ないです。
話をちょっと広げます。もしあなたが管理職なら、部下の間違いが多いと不満を感じているかもしれません。それは部下の能力の問題でもありますが、「あいつは仕事ができない」と嘆いているだけではその悩みは解決しません。間違いが多い部下が経理の仕事を行なっても、間違いが発生しないような仕組みをつくりましょう。言い換えれば、その仕組みをつくるのが管理職の仕事であって、部下の間違いを叱ることが仕事ではありません。
経理が他に間違いを指摘しなければならない相手は、同じ会社の経理部門以外の人でしょう。
経理が他部門から嫌われる理由の1つとして、細かな間違いを指摘することがあると思います。「○○さん、ここが違っていますので、お時間のあるときに直してください」と、いくら丁重に経理がお願いしても、言われたほうは、「うるさいなぁ」と思っていることでしょう。
嫌われるのはわかっていても、仕事だから経理も細かい間違いを指摘しているのです。いずれにしても、言うほうも言われるほうもストレスがたまりますよね。そしてこういうときに、間違いをした人が悪いと考えてしまうと、同じことが繰り返され、お互いにストレスを抱えたままになってしまいます。
ここでも間違えた人のせいにするのではなく、「間違わせてしまってゴメン」とでも思いましょう。そして、間違わないような仕組みを経理側でつくることを考えるのです。
間違いは誰にでも発生するものです。しかし間違いは、仕事の仕組みを見直すチャンスです。
他の人が間違えた場合は、「間違えてくれてラッキー」と思いましょう。また、自分が間違えたら、自分が悪いのではなく、「仕事の仕組み」が悪いのだと責任転嫁しましょう。そして仕組みを進化させることを考えるのです。それが間違いの防止につながり、結果的にストレスは軽減されます。
税理士。税理士事務所勤務、リサイクルショップ経営等を経て2006年佐藤税理士事務所を設立。ITを駆使した生産性向上支援、経理業務効率化等支援が得意。2010年にはAll Aboutプロファイルで人気ナンバーワン税理士に。
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