“モノの値段”を意識すれば、ビジネスモデルが見えてくる――会計センスは営業の武器仕事力を高める会計の「知恵」

会計学が最も役立つのは、営業職の人かもしれません。対談の第2回では、「もうけ」の仕組みを理解するとともに、会計のセンスを身につけるために普段の生活の中でできることを考えます。

» 2014年06月27日 11時00分 公開
[房野麻子,Business Media 誠]
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対談「仕事力を高める会計の「知恵」」について

『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』 『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』(眞山徳人/日本実業出版社)

仕事をしていく上で、「もうかったかどうか」を意識するのは重要なこと。つまり、仕事に関わる“数字”をつかんでおくことが大事です。ただ、会社が社員それぞれの仕事の成果をまとめて“数字”で表すために用いる「会計」について学ぼうとしても、その専門性の高さが壁となり、ついつい及び腰になりがちです。そんな会計ともうけのしくみを、江戸時代の丁稚を主人公にストーリー仕立てで分かりやすく解説するのが、書籍「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」です。

この本の著者である公認会計士の眞山徳人氏と、会計に関する著作を含め30冊以上を世に送り出す公認会計士の平林亮子氏が、社会人なら知っておきたい会計の知識を楽しみながら身につける方法を4回にわたって紹介するのがこの対談。営業パーソン、バイヤー、マーケッター、生産管理担当など、管理部門以外の人にも即効性のあるヒントがいっぱいです。(聞き手:『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』編集担当 蔵枡卓史氏)


もうけるためには“お客さんに喜ばれるものは何か”を考える

―― 対談の第1回では、身近なものを数字に置き換えてみることで、“楽しみながら会計の知識を身につけられる”ことを教えていただきました。今回は眞山さんが執筆した書籍『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』のタイトルにも入っている「もうけ」の仕組みを理解する方法を学んでいきたいと思います。

Photo 眞山徳人氏

眞山徳人氏: 「もうけ」は簡単にいうと、収益から費用を引いたものです。もうけを増やすためには収益を上げる必要があり、しっかりとした販売戦略を立てることが重要になります。

 販売戦略を立てる上ではまず、“お客さんに喜ばれるものは何か”を突き詰めることが大切です。お客さんをどう定義するか、お客さんが求めているのは贅沢品なのか、いつでも着られるファストファッションのような低価格品なのか――といったことを考えるわけです。江戸時代を舞台にした本書では、お客さんである武士に向けて、「生活必需品」と「嗜好品」という2つの面がある呉服をどんな戦略で売っていくのか――という流れでもうけの仕組みを解説しています。

 次に考えるのが、材料や人、建物、設備などにかかる出費ですね。収益からこれらの費用を引いたものがもうけになるわけです。

平林亮子氏: 「お金を払ってくれる相手がいて初めて売上(=収入)が立つ」ところがビジネスの面白さであり、難しさでもありますよね。お客さんが欲しいと思うものを作り出せるかどうかで企業の存在価値が問われることになりますが、その製品を“売上を下回るコストで作って提供”しなければ、もうけは出ません。

 その上で、「お客さんが“買ってくれた”から、売上やもうけが生まれてくる」ということですね。お客さんに選ばれ、お金を払ってもらう価値があるものを提供するのは、とても重要なことです。

―― “もうける”という言葉にはネガティブなイメージがつきまといがちですが、本来は「お客さんに喜んでもらえた料」と胸を張っていいですよね。

眞山氏: 他社と競争するとき、「安ければ安いほどお客さんは喜んでくれるだろう」といったように、ついつい価格のことを真っ先に考えてしまいがちです。でも、本当に大切なのは“価格以外のところで、よりお客さんに喜んでもらうにはどうしたらいいか”を考えることなんです。

Photo 平林亮子氏

平林氏: 消費者の立場になってみると、「安くていいものを買えてうれしい」と思うこともあれば、「高いけどいいものを買って満足」と思うこともありますよね。

 自分がお客さんの立場だったら何を喜んで買うのか――と考えればいいわけですよね。売り手は良い物を作って売る。お客さんはそれを買って喜ぶ。その結果、もうけが生じる。お客さんに喜んでもらった結果として得られるのがもうけなのだから、悪いことではないのです。

 真面目な人ほど、もうけについて後ろめたいような気持ちになってしまうかもしれません。でも、一所懸命お金を貯めて高いものを買ったとき、人はメーカーに対して「作ってくれてありがとう」という気持ちを持つはずです。そのくらい、ものを売るのは素晴らしいことなんですよ。

ノルマを気にした安易な値下げはNG

―― 本書の中には、主人公の勘助がノルマを達成したいという思いから原価を無視した営業をしてしまい、旦那様に怒られるシーンがあります。現代の営業マンが営業上の失敗を避けるために、最低限知っておいた方がいいことはありますか。

眞山氏: 実は私がコンサルティングをしている会社でも、営業スタッフが原価を知らないことがよくあります。あえて知らされていないケースもありますが、単に聞いたことがないという人が多いんですね。売値の最低ライン(原価)を知らないと、「原価割れで販売してしまった結果、赤字を出す」という、本書の勘助と同じ過ちを犯す可能性があります。それでは、会社は存続していけません。

 一方で、お客さんがその製品に対して“いくらまでなら払えるか”を考えるのも重要です。それを超えてしまうと製品を買ってもらえず、やはり会社の存続が危うくなってしまいます。つまり、原価割れを起こさない最低ラインの金額と、お客さんが払える金額のラインの2つを知っておく必要があるのです。

―― つい、自分のノルマのことで精一杯になってしまい、会社という大きな視点で考えられなくなってしまいます。

眞山氏: ノルマといえば、本書の中で勘助がベテランの福太郎に教えを乞う場面があります。福太郎が自分の知っている情報をきちんと伝えているのと同じように、営業に関する情報を社内で見える化することも大切です。

 ノルマ達成に固執するあまり、「自分が手に入れた情報を誰にも教えない」ケースもあるようですが、そんな振る舞いは会社全体でみると大きな損失につながります。さらにいえば「この商品の売れ行きがいい」「この人はこれくらい売っている」といった情報まで見える化すれば、会社全体の業績も変わってくると思いますよ。

平林氏: 街中で販売されている製品の値段に敏感になり、意識して覚えておくだけでもいいと思います。

 例えば、ウィンドウショッピングで商品の値段を聞くところから始めてみてはいかがでしょう。普段、自分が接しているお店だけでなく、高価で買えないような商品を置いているブランドショップにも入っていって、値札の付いていない商品の値段を聞いてみる。何も買わずにそのまま帰ってくるのは勇気がいりますが、それでもやってみることです。

 いろいろなお店で製品やサービスの値段をインプットすれば、次第に感覚が磨かれます。そうしているうちに、違うお店に行ったときに値付けの理由が分かったり、ビジネスモデルが見えてきたりしますよ。

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