さて、一般的にメンタル不調者が多い組織にはどのような特徴があるでしょうか。ストレスの原因といわれると、こなさなくてはいけない仕事が大量にあるとか、長時間労働を余儀なくされるといった「仕事の量」や、業務にスピードや高い品質を求められる「仕事の質」といった要因がまず思い浮かびます。
しかし、身体的不調やメンタル労災を引き起こすような法令違反に当たる長時間労働は別として、仕事の質、量とストレス反応はあまり強い相関がないということが分かってきています。極めて厳しい状況でも元気に働いている人もいれば、そうでない職場でもストレスを抱えている人がいるなど、ストレス反応に大きな差が出ています。これはどう解釈すべきでしょうか。
「ストレス対処力」がストレス反応に強い影響を与えていることは前回お話ししましたが、職場環境のいろいろな要素の中で、仕事の質、量のほかに要因はないのでしょうか。
われわれの最近のストレス要因分析で、ストレス反応の悪化に重要な影響を与えると分かってきている環境要因の主なものを挙げると、
となります。
自分の日々の活動がどんな目的に向けられているのか、自分の属している組織がどんな価値観のもとに動いているのか、理解すれば人はそこにやりがいを強く持つでしょうし、逆に分からないまま働くことは無力感につながり、ストレス反応によくない影響を与えます。
また、上司の言われるまま、自由裁量が全くない状態で機械のように働くことが無力感やメンタル不調に結びつきやすいことも分かると思います。一定の裁量を与えられてのびのび働くことは、自信にもつながりますし、それがストレス面、ひいてはモチベーション面でも好影響を与えるのです。
われわれがコンサルティングを行うクライアント企業においても、経営者が会社のビジョンを社員に浸透させる活動に取り組む会社や、責任と権限の委譲を進める組織のストレス反応は比較的低くなります。ビジョンの共有の重要性を裏付けるように、比較的経営者と社員の距離が近い100人未満の小企業のストレス状況が良好であるという分析結果もあります。
人間関係の改善については、問題があると分かった場合にその原因がどこにあるのか1段掘り下げてみる必要があります。マネジメントや人事評価への不満に起因している場合には管理職の研修につなげたり、意見を言うのが苦手なタイプの人が多い場合にはアサーションやEQトレーニングのようなものをやってみたり、いろいろなソリューションが考えられます。最近は、顔を合わせてみんなで一丸になる機会を作るために運動会を復活させるなどの取り組みもあるようです。みなさんの会社はどうでしょうか。
ストレスチェックから分かる要因は統計的な話であり、個別のケースに100%当てはまるものではありません。ただ、ストレス状況が悪い中でいかに美しい経営戦略を描いてみたところで、組織がそれについてこられず、燃え尽きてしまっては元も子もありません。
そうした意味でストレスチェックを会社単位や職場単位で分析してみることは、組織風土の改善に手を付け、より力強い組織を作るためのきっかけになるのです。ストレスチェックの義務化が2015年12月から始まりますが、個人のメンタル不調者の早期対応にとどまらず、組織の生産性向上にストレスチェックを使う企業は増えているのではないかと予想されます。
次回は、メンタルタフネスが高いビジネスパーソンになるためにできることを考えます。
アドバンテッジリスクマネジメント 取締役 常務執行役員
東京大学法学部卒業、文部省(現文部科学省)入省。2001年にアドバンテッジリスクマネジメント入社。経営企画を中心に、メンタルヘルスケアや就業障がい者支援などの分野で現在の事業の柱を作る。
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