ネタ帳づくりは手間暇かかる作業ですが、この作業を抜きにしてスピーチはうまくなりません。右の写真は、Aさんのネタ帳です(ご本人の許可をいただいて掲載させていただきました)。
ノート4冊分で、1冊ずつぎっしりとスピーチの内容をまとめてあります。私がいままで見たなかでもダントツに多い分量です。
私はいつもクライアントの人に「本番の10倍は練習してください」と言っています。名づけて「10倍準備の法則」です。つまり、3分のスピーチなら30分、60分の講演なら600分=10時間、90分の講演なら900分=15時間は準備に費やしてほしいということです。
Aさんに「10倍準備の法則」を伝えると、広げた4冊のノートを愛おしそうに見つめながら「それ以上の時間は、絶対にかけているな」と満足げにおっしゃっていました。
Aさんは内容を記憶するのはもちろん、寝ても覚めてもスピーチの言葉をブツブツとつぶやいていたそうです。こうした熱心さも、スピーチ成功の秘けつでしょう。
十分な準備を行い、本当に聞き手のことを考えて真摯に向かい合えばそれが自信となって表われます。そして、言葉にこもる力強さが聞いてる人たちに対して信頼感や安心感を与えるのです。
あとは、大きな声で堂々とスピーチすれば万全です。
Aさんの講演を、後日、私もビデオで拝見しました。ときには会場から笑いが起き、ときには真剣な投げかけに会場が静まり返り、大変中身の濃い内容でした。
主催者によると、講演を聞いた人のなかにはAさんの話に感銘を受けて職業を変えた人もいたとのことです。
聞いている人たちが自分の一言で笑ったり、考えたり、行動を変えようとする。これこそが言葉の力であり、人の上に立つリーダーには欠かせない力です。
さらに、経験した人なら分かると思いますが、自分はそれだけの影響を相手に与えることができるんだ、という手応えや充実感は非常に大きなものです。
自分が満足するまで準備を行うことは、内容を充実させることはもちろん、話し方にも自信として表われます。その自信が、講演の内容をより説得力のあるものとして言葉に力を吹き込むのです。
「準備時間とスピーチが与える影響力は比例する」ということをどうぞお忘れなく。
キャスター歴17年。主にニュース報道番組を担当。大学院では心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究。現在は、政治家・経営者・管理職を中心に「信頼を勝ち取るスキル」を指導。著書に『その話し方では軽すぎます! 〜エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』がある。著者オフィシャルサイト
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