ソフトバンクの強さの源泉はコンパクトなコミュニケーションにあり、社員はそのための強烈な訓練を受けていた。
プレゼンの達人と呼ばれ、奇跡とも呼べる企業提携を世界中で実現してきた孫正義氏。実は、そのプレゼン戦略は非常にシンプルで明確だった。
など、誰もがすぐに実践できるものばかり。不可能を可能にする孫正義の伝える技術、その極意を凝縮して紹介する。
この記事は2011年12月1日に発売された『孫正義 奇跡のプレゼン』(三木雄信著、ソフトバンククリエイティブ刊)から抜粋、再編集したものです。
孫正義は、情報を発信するとき、自分自身だけでなく、社員にも「メッセージ」をコンパクトにまとめることを求める。こうした「メッセージ」をコンパクトにまとめることを表す「エレベータートーク」という言葉がある。この言葉の起源はシリコンバレーだといわれている。ベンチャーを起業しようとする人が、なかなか会うことができないベンチャーキャピタリストに偶然エレベーターで乗り合わせたフリをして、目的の階に着くまでの短い時間で説得して出資を受けることに成功したという話から来ている。
ソフトバンクの社員が自分の持っている企画なり課題なりを孫正義に説明することは大変なチャレンジだ。まず、孫正義のスケジュールを押さえて時間を取ることは難しく、著名なベンチャーキャピタリストに会うのと同じだ。しかも一度時間が決まっても、その前のミーティングが長引き、時間がどんどん遅くなっていくことが多い。最悪の場合はミーティングできないうちに孫正義が外出してしまうことすらある。
このため、もし、幸いなことに秘書から「さあ、社長室に入ってください」と言われたら、電話がかかってきて延期されないうちに素早く社長室に入って、すぐに話を始めなければならない。最初の10秒が非常に重要だ。ここでだらだらと説明をしたら、「結論から言え、結論から」と言われ、それでもコンパクトに説明できないと「あと!」と言われてそこで終わりだ。次のスケジュールの来客が呼び込まれることになり、すごすごと帰ることになる。その社員にとってはどれほど重要であってもお構いなしだ。孫正義は「一を聞いて百を知る」ことができる。社員が話を始めた様子や最初の一言、二言でもう話の大筋をつかみ、駄目出しをすることなど朝飯前なのだ。
もし、首尾よく、孫正義が最初の10秒を超えて話を聞いてくれれば、その後は自然とディスカッションとなり一定の結論へとつながっていくことになる。この場合には、社員は胸をなでおろして笑顔で社長室をあとにすることができる。
このようにソフトバンクの社員は孫正義の前に出るとき、よく準備をして頭の整理をし、最初の一言をどう切り出すか真剣に考える。まるで「居合切り」のような気合いが必要だ。しかし、こうしたプレッシャーを受けながら孫正義へ説明をすることは、社員にとってはコンパクトにコミュニケーションをするための強烈な訓練となっている。そして、その社員は部下に対しても同じようにコンパクトなコミュニケーションを要求するようになり、ソフトバンク全体の社風となって成長していく。このことはソフトバンクの強さの源泉の一つといえるだろう。
さらに切れのあるプレゼンテーションのためには、最も重要な「メッセージ」を抽出してそれを短文で言えるように訓練しておくことだ。そして、その訓練は日常的な上司への報告でも、ツイッターでも十分可能なのだ。
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