経理マンの定規が木製である理由――『文具上手』:文具書評(2/2 ページ)
文具好きなら、ほかの人がどんな道具をどのように使っているか気になるはずだ。そこで、デザイナーや新聞記者、医師などの12人の事例をカラフルな写真とともに180ページで紹介したのが本書『文具上手』である。
裏テーマは“デジタル時代の文具”
本書にもうひとつ特徴があるとすれば、これが“デジタル時代における文具の存在意義”に再三言及していること。著者が意識しているかどうか分からないが、これはある意味必然だろう。
デスクワークが必須の職業なら、PCは最終成果物のアウトプットに不可欠だ。だから文具はどちらかと言えば、下書きのような脇役と思われがちだ。本書に登場する12人もほとんど全員がPCも使っている。その中で文具がどんな必然性を持って使われているのだろうか。
例えば、52ページに登場する小児科医は、電子カルテの補完として紙の診療録を利用している。診療録への書き込みは製薬会社のノベルティでもらったマルチペンを利用し、患者の状態を赤や青の色を使って詳しく記入しているのだ。この診療録にはクリアホルダーがセットになっており、机の上に積み上げられたホルダーの量によって受け持っている患者さんの数が分かるという。
医療の現場では電子カルテも一般的になりつつあるが、その一方でアナログな文具がこんな風に使われているというわけだ。
文具が使われている現場の空気感を楽しむ
とまあ、こんなふうに紹介すると一軒堅苦しいガリガリのビジネス書みたいな本に思えるかもしれない。実際に手にとるとそうではない。
これはどちらかと言えば、肩のこらない読み物だ。アイテムのリストは文具店のプロによる万年筆リストがあるだけで、“これとこれをそろえましょう”的な押しつけとは無縁。また、写真もユーザーのプロフィールや、仕事場が登場するし、肝心の文具もブツ撮りというよりはむしろ、風景写真のような柔らかなタッチだ。
一読すると冗長に思える文体も、文具がその職業の人にとってどんな必然性を持って使われているかを丁寧に追求するためだと思えば納得できなくもない。全体として文具が好きな人がゆるーく楽しめる作りでありながら、仕事のヒントも得られる。『文具上手』はそんな1冊なのだ。
『文具上手』土橋正・著(東京書籍)
さまざまな職業の「文具上手」12人に、普段の文具術を徹底インタビュー。明日からあなたの仕事にも役立つヒントが盛りだくさん。十人十色の文具術。
土橋正(つちはし・ただし)
ステーショナリー ディレクター。文房具の展示会「ISOT」の事務局を経て、土橋正事務所を設立。著書に『やっぱり欲しい文房具』(技術評論社)、『仕事にすぐ効く 魔法の文房具』、『文具の流儀』(ともに東京書籍)、共著に『ステーショナリー ハック!』(マガジンハウス)がある。
著者紹介:舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)
手帳評論家。最新刊『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)が好評発売中。『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)は台湾での翻訳出版が決定している。その他の主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)などがある。誠Biz.IDの連載記事「手帳201x」「文具書評」の一部を再編集した電子書籍「文具を読む・文具本を読む 老舗ブランド編」を発売
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