企業内での「メンタルヘルス不全」を防ぐには?:未来の人事を見てみよう
企業が抱えるメンタルヘルス不全の問題。その伸びは鈍化しつつも、引き続き不調者が出続けているのはなぜでしょうか? 今回は、メンタルヘルス不全を引き起こす要因と、企業が取るべき対策について考えてみましょう。
クレイア・コンサルティングの調です、こんにちは。今回は、企業におけるメンタルヘルス問題の現状とその対策について考えてみたいと思います。
現在のメンタルヘルス不全の状況と対策
日本生産性本部が発行する生産性新聞が昨年8月〜9月に実施した調査「2011年度『人事部門が抱える課題とその取り組み』に関するアンケート」(PDF)によると、人事部門が問題を認識しつつも経営層が認識していない課題の5番目に、従業員のメンタルヘルス対策があげられています。
2012年版の調査では、残念ながらこのような比較データは出ていませんが、メンタルヘルス不全の状況に対して企業側が取っている対策については、少し古いデータになりますが『労政時報』を発行している労務行政研究所の2010年4月〜5月に行った調査「企業におけるメンタルヘルスの実態と対策」にまとめられています。
これを見ると、メンタルヘルス対策を実施している企業は全体の86.5%。その具体的な実施内容としては、心の健康対策を目的とするカウンセリング(相談制度)が70.2%でトップ。次いで、電話やEメールによる相談窓口の設置が67.0%、管理職に対するメンタルヘルス教育が59.6%、一般社員に対するメンタルヘルス教育は44.5%という結果となっています。
メンタルヘルス不全を起こす3つの要因
このような対策が取られているにもかかわらず、続発しているメンタルヘルス不全を防ぐにはどうすればよいのでしょうか?
イギリスの人事専門誌HR Magazineにおいて、メンタルヘルスに関する記事が掲載されています。
メンタルヘルスの専門家が集まったAssociate of British Insurers (ABI) のMental Health Breakfast Dialogueという集会において、専門家の一致をみたものでは、メンタルヘルス不全を引き起こす要因として、まず、ライン管理職のマネジメント力の質の低さ(poor line management)と、長い労働時間(long working hours)の2つがあったということです。
どのような立ち居振る舞いをしているか、どのようなようすでいるかを観察するなどのシンプルなスキルを身につけるだけで、自分の部下が苦しんでいるのかどうかが分かる。マネージャーのスキル開発には時間とお金の投資が必要になるが、その効果はコストを大きく上回る。
実際、メンタルヘルスや物理的な健康状態と、ビジネスの収益性との関連は大きく、イギリスにおいてはメンタルヘルス関連のコストがGDP上520億ポンド(約6兆8千億円)ほどにまでのぼっているそうです。これが減っていくならば、かなりのインパクトになると考えられます。
また、3つめの要因とされている不完全雇用(underemployment)も、特に最近働き出した新卒社員を中心に、自分のスキルが十分に活用されていないことが、メンタルヘルス不全につながる重要な要素とのことです。これは、最近のスキルギャップの議論でよく出てくるのですが、仕事とスキルとのミスマッチから、大卒の社員であっても高度な業務につくチャンスがもらえず、専門分野の知識やスキルを生かせない仕事に従事せざるを得ない状態を指しています。
企業が取るべき対策
3つめの不完全雇用については、企業側が抜本的に取りうる施策は特にないことを考えると(あえて言うなら企業を成長させることによる自社雇用の拡大でしょうか)、最初の2つの要因を改善するような、いわゆる一般的な(ジェネラル)マネジメントの強化こそが、企業のメンタルヘルス不全対策として必要な施策と言えそうです。
これは、先の労務行政研究所で見られた調査結果が、どちらかというと対処療法に近いものであったのに対し、より根本的な措置であり予防としての位置づけになろうかと思います。
通常どの会社でも行われているような、ベーシックなマネジメント能力を向上させることで、社員の戦力化だけでなくメンタルヘルス不全の予防までをもカバーできるとすれば、現在行っているメンタルヘルス教育の比重を減らしてでも、社員のマネジメント力向上により投資していくのも、投資対効果として優れた方法なのかもしれません。
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※この記事は、誠ブログの「未来の人事を見てみよう:マネジメント力を強化するとメンタルヘルス不全も防げる」より転載、編集しています。
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