仕事術の本を読まずに肉を食え――元トリンプ社長が説く「脱・社畜」道:企業家に聞く【吉越浩一郎氏】(2/2 ページ)
『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』の著者で、トリンプ・インターナショナルの元社長・吉越浩一郎氏が、若手ビジネスパーソン、そして経営者に向けたメッセージとは。
英語は絶対必要・OSは最新のものを使うべき
まつもと: 本連載『企業家に聞く』では、ビジネスパーソンの関心も高まっている英語についてもお話しを伺っています。吉越さんは英語とはどのように向き合い、身につけられたのでしょうか?
吉越氏: 歴史を振り返れば、アメリカ大陸を巡って英仏戦争が起こり、イギリスが勝利した時点で英語が国際標準語になることは運命付けられていたんです。そして、いまグローバル化が速度を上げて押し寄せる中、もうそこから逃れることはできない。日本語は地球規模で見れば単なる1つの方言に過ぎませんから。
国内だけでビジネスが成立するという幸運な環境に身を置いているのであれば別ですが、そうでなければもうこれは身につけるしかないでしょう。そして、ネットが普及した現代であれば独力で学べる環境が整っているんです。僕だって、BBCとかCNNを見るようにして未だに分からない単語が表現が出てきたら、その都度調べる努力をしています。外資系企業で長く働いては来ましたが、留学先はドイツだし、パートナーはフランス人ですからね(笑)。もう間もなく70になろうとしている僕だってまだ学べるけれど、若い人には海外に出るチャンスを掴んでもらう方が手っ取り早いかもしれないね。
――お話ししていると、お考えも若者に全く引けをとらない、というかむしろエネルギッシュで驚かされます(笑)。最後に、本書ではITについて興味深い提言をされているのも刺激的でした。社内のIT環境は常に最新のものに更新されていった、あるいは、取引先とのサプライチェーンマネジメントシステムは、内製にこだわったといった点です。
吉越氏: 既存のシステムとの整合性はもちろん担保されなければなりませんが、基本的に最新のPC、OSを使うのがよいと思います。たしかに「Windows 8は使いにくい」という評判はありますが、「実際使ってみると確かに慣れが必要」っていう具合に評価できること自体が、会社として最新のものを使っている示しにもなります。ハードの能力も含めた最新の環境は全体としてはまず間違いなく生産性が向上するからです。
そういった環境を整える投資は、人件費に比べればはるかに安い。PC環境はどんどん更新して生産性を上げたほうが、絶対にPL(損益計算書)上はプラスであるはずなんです。前半にお話ししたような秘書を雇えという話とも基本は同じ考え方ですね。
システムの構築も、外部に出したほうが一見楽だし、価格を叩くことで費用も抑えられるように思えるかもしれない。でも、自分たちの業務に密接にひも付いた生命線なのですから、ブラックボックスを作らず、緊急時には自分たちで直したり、事業環境の変化に即応して改良できたほうが絶対によいに決まっているんです。これは全体最適にも通じる話ですね。
「人生は競争の連続だ」「社長を狙え」という吉越氏の言葉は、一見強烈でマッチョなものに聞こえるかも知れない。筆者の最初の印象も正直それに近いものだった。しかし、氏がいうように、自らの仕事をPLで把握し、コントロールできることを目指していくことは、とりもなおさず競争の中でよりよい結果を得て、それを楽しみ、いわんや社畜状態から脱することを意味する。
氏が強調する倫理=Ethicの重要性、それを担保するための仕組みは、そのPLを個人の中に留めず会社組織全体として共有するものだと言えるだろう。そうした公正な判断基準が示されてこそ、組織の中の個人は納得して全力疾走できるというものだ。
実はインタビューはこの後、政治システムをめぐる話にも拡がり、「では三権分立は相互監視の仕組みとして上手く機能しているのか」という論点も示された。倫理つまり公正さをどう保つかという問題は、個人、会社からさらには社会をどう適切にコントロールするかに拡がるテーマでもあるのだ。
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