モバイルSuicaに見るJR東日本の戦略神尾寿の時事日想(特別編)(2/2 ページ)

» 2005年11月16日 23時04分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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Suica電子マネー、今後の展開

 首都圏中心で普及を図るSuica電子マネーだが、全国規模で考えた場合、他のJR地域会社との連携はどうなるのだろうか。

 「乗車券サービスとしてはJR西日本と相互乗り入れをしていますが(4月27日の記事参照)、電子マネーの部分がどうなるかは議論している段階です。電子マネーは加盟店管理などの部分もありますので、乗車券よりも相互乗り入れが難しい事情もあります。当面、JR西日本のように自前の電子マネーを始めている会社は、それぞれの地域で(自分たちの電子マネーを)普及させていくというスタンスになると思います」(倉橋氏)

 今後の展開として気になるのが、JRグループが集結して1つの電子マネーを作るというシナリオだ。香港のオクトパスを例に挙げるまでもなく、鉄道は電子マネーの推進剤として大きな役割を果たす。全国に基幹的な鉄道網を持つJRの「共通電子マネー」は、各JR地域会社の電子マネー相互乗り入れよりもインパクトがありそうだ。

 「その部分(全国化)については、複数のシナリオが考えられます。JR各社が共同で電子マネーの会社を作るというシナリオもあるでしょうし、我々(JR東日本)が胴元になって電子マネーのインフラを各地域会社に提供してもいい。しかし、全国化の前提には券売機や自動改札での非接触IC導入が前提になります。未だに非接触ICシステムを導入していないJR地域会社もありますから、議論はそこからになるでしょう」(倉橋氏)

 倉橋氏によると、地方から上京するビジネスパーソンが東京でSuicaを使い、「自分たちの地元でもSuicaを使えるようにして欲しい」とJR東日本に要望する例も多くあるという。こういった声が増えて、JRの各地域会社で非接触ICシステムの導入が進めば、電子マネー部分の相互乗り入れや共通化の動きにも繋がるという。

 一方、もう1つの重要なポイントとして、'06年のSuica=パスネットの相互乗り入れがある。乗車券分野では共通的に使えることが決まっているが(2003年7月28日の記事参照)、電子マネーはどうなるのだろうか。

 「現在、決まっているのが改札機の非接触IC化で、ここはSuicaと相互乗り入れします。電子マネーについては、パスネット採用事業者が検討している段階です。我々としては、『ではSuica電子マネーを使ってください』というのもおこがましいので、Suica電子マネーの運営ノウハウを提供させていただくというお話はしています。利用者の利便を考えると、複数の電子マネーがあまり混在するのも大変ですので、(Suicaとパスネットの)電子マネーの相互乗り入れについても同時に検討していただいている段階です」(倉橋氏)

利用者・加盟店の利益になるなら、Edyとも手を組む

 JR東日本のSuica電子マネーとビットワレットのEdyは、電子マネー分野をめぐって競合している。JR東日本としては、Edyとの電子マネー相互乗り入れは「現時点ではそういう考えはない」(倉橋氏)と断言するが、一方でリーダー/ライターの共用化などは手を組む考えがあるという。

 「先のNTTドコモとリーダー/ライター共用化の発表の際も(7月28日の記事参照)、プレスリリースにはドコモ、JR東日本に加えて、『他のFeliCa決済サービス』が参加できると表記しました。これがEdyであるとは言っていないのですが、やはり重要なのは加盟店と利用者の声だと考えています。

 加盟店にしてみれば、複数の電子マネーに対応するのに、複数のリーダー/ライターを導入しなければならないというのは、どう考えても不便です。また利用者の立場でも、(店舗によって)使える電子マネーが異なる状況が続くというのは、やはり不便でしょう。サービスとしての競合は確かにありますが、それ以上に加盟店とお客様の利益を最優先しなければならない、というのが我々のスタンスです」(倉橋氏)

 ドコモとJR東日本のリーダー/ライター共用化は、前者がクレジットサービス「iD」のため(11月8日の記事参照)、後者がSuica電子マネーのためであり、直接的な競合はない。JR東日本は“競合するEdyの参加もあり得る”という見方を示したが、ビットワレットがこれに参加するとなれば、Edy用に設置したリーダー/ライターの共用化という議論も生まれるだろう。リーダー/ライターの共用化がどのように進展するかは、おサイフケータイの電子マネーがどれだけ使いやすくなるかを考える上でも、興味深いポイントだ。

モバイルSuicaでネットと結合。当初のターゲットは65万人

 Suica事業にとって、モバイルSuicaは単純に利用媒体が増える以上の期待がある。特に重視しているのが、インターネットとの結合だという。

 「まずは電子予約システムとSuica乗車券のシームレス化が狙いですが、それに加えてインターネット上でのSuica電子マネー決済という新たなビジネスの領域に入っていける。電子マネーはこれまでリアルな世界で普及させてきたわけですが、モバイルSuicaは次のステージだと考えています」(倉橋氏)

 モバイルSuicaは、これまでのSuicaよりもアプリケーションが増える。携帯電話の普及台数の多さや若年層の利用率の高さなど、新規ユーザーの獲得の期待もかかるが、JR東日本がまずターゲットにするのは既存ユーザーになる。

 「モバイルSuicaは多くの人に訴求できるサービスだと考えています。当初は65万人のビュー・スイカ契約者、この方々はSuicaユーザーの中でもコアな層なのですが、ここがターゲットになります。その後、チャージの方法を増やしていき、2006年には少なくともモバイルSuicaで100万ユーザーを獲得するのが、当面の目標です」(倉橋氏)

 来年1月、まずはビュー・スイカ契約者から利用可能になるモバイルSuica。おサイフケータイにとって首都圏のキラーサービスになるだけでなく、非接触IC型乗車券システムや電子マネーの将来において、その開始は1つのターニングポイントになると言えそうだ。

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