モバイルSuicaサービスの開始が近づき、その詳細が発表されるにつれ、業界内がかしましくなってきた。すでに複数の関連記事が載っているが(12月3日の記事参照)、話題の中心は大きく2点。対応機種の問題と、チャージの問題だ。
特に対応機種については、最新機種の一部が非対応になり、JR東日本が非公開の姿勢を取っているため、ちょっとした混乱になっている。当事者であるはずの端末メーカーやキャリアも、ごく一部の人間しか通過性能評価試験の内容を知らないらしく、「ところでJR東の件、何か知らない?」が最近の挨拶のようになっている。モバイルSuica非対応が、関東圏で逆風となったD902iは不幸としか言いようがなく、筆者も所有するW32Sは対応はするものの、「バージョンアップに1週間」というのは面倒だ(12月5日の記事参照)。
一方、チャージの問題については、1年以上前にあるビジネス誌で取材した時から「当初はVIEWカードユーザーが対象になる」と聞かされていた。しかし、本誌のインタビュー(11月9日の記事参照)でも明かされたように、あくまでこれは初期段階の話であり、他社のクレジットカード対応もサービス開始後1年以内に行われる可能性が高い。
携帯電話業界とユーザーの熱い期待に“水を差した”格好のモバイルSuicaだが、ここまで慎重なのは、JR東日本にとってSuicaのシステムが経営の根幹に関わる重要なものだからだ。評価試験の情報がもっとオープンになってもいいとは思うが、改札口通過でモバイルSuicaによる混乱を招かないためには、かなり慎重な体制で新サービスに臨まなければならないのは致し方ない部分である。
さらに通過性能評価試験が厳しく、その結果が端末発売確定後の「のっぴきならない」状況になってからしか分からないのは、JR東日本の責任だけとは言えない部分もある。
例えば自動車メーカーに取材していると、「(携帯電話)キャリアとメーカーは、開発中の端末仕様を発売数ヶ月前にコロコロと変える。事前に知らされていた仕様書とまったく異なる内容になることもあり、(携帯電話に)対応する側としては困っている」(自動車メーカー幹部)という声はよく聞く。
携帯電話はあらゆる製品の中でも開発ペースが異常に速く、しかも開発中の仕様変更が日常茶飯事である。最近では初期不良やバグの発生状況も、家電品よりもPCに近くなってきている。
これらはキャリア同士、メーカー同士の激しい競争上、仕方のない部分であるのだが、それは業界内の内輪の事情である。おサイフケータイのように「他業種企業との連携」が必要なサービスでは、せっかくの協調関係に摩擦を起こす要因になりかねない。さらにモバイルSuicaの効果が期待以下になってしまったように、サービス連携の市場効果が小さくなってしまうのは、残念なことである。
おサイフケータイの登場によって、携帯電話業界は今後、他業種との連携をさらに深めていくことになる。その中で、相手方のスピードや要求仕様にあわせる必要性は増していくだろう。適応するサービスの仕様を携帯電話業界内で統一化し、他業種の評価試験を効率的に通過する仕組み作りが重要になる。
一連のモバイルSuica開始における混乱を教訓にして、おサイフケータイ分野など外部連携・協調機能では「携帯電話業界内をまとめる」必要性を考えるべきだ。さらに他業種企業の評価試験を早い段階で受けられるように、開発から市販に至るスケジュールとペース配分を見直し、外部連係機能については安易な仕様変更をしない努力も必要だろう。携帯電話産業の裾野が広がる上で、これらは避けては通れない道である。
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