2006年に入り、おサイフケータイのクレジット決済サービスが大きく動き出した。その中でもJCBの「QUICPay」は、この分野の先駆けであり、モバイル決済推進協議会(2005年10月25日の記事参照)でも重要な役割を担っている。前編に引き続き、ジェーシービー開発本部QUICPay推進プロジェクト営業推進グループの吉田敦史氏と、同開発本部QUICPay推進プロジェクト事務局の青木直人氏のインタビューをお届けする。
おサイフケータイ向けクレジット決済で分かりにくいのが、サービスの立ち位置とブランド戦略である。ドコモ=三井住友カードの「iD」はブランドという位置づけであり、すべてのイシュアに対しての普及を目指している。その中で、ドコモ自身もこの春からイシュア事業者としてiDブランドを使うが、別の名前のクレジットサービスを展開する模様だ。
JCBのQUICPayは現在、JCBがイシュア(カード発行者)となるプロパーカードとフランチャイズカードが対応しており、今春からトヨタファイナンスなど他のイシュア事業者も対応を開始する見込みだ。JCBとしては、QUICPayの立ち位置をどのように考えているのだろうか。
「基本的なスタンスとしては、JCBブランドに関係なく、すべてのイシュア事業者様にQUICPay対応をお願いしています。ですから、(三井住友カードが)対応さえしていただければ、三井住友VISAカードでQUICPay対応をすることもできます。ブランドとしてのJCBと、QUICPayとは別物だと考えてください」(青木氏)
QUICPayはJCBブランドに付随するものではなく、おサイフケータイなど非接触ICを使うクレジット決済に対する「(JCBから)独立した決済スキーム」(青木氏)という位置づけだ。考え方としては、おサイフケータイ向けの“ブランド”を目指すドコモ=三井住友カードのiDに近いように見える。
「我々としては、(QUICPayのような)おサイフケータイ向けの決済スキームを『ブランド』と称するのは語弊があるかな、と考えています。どちらかというと、ETCのようなものですね。ETCは(ブランドやイシュアの違いを超えて)すべてのクレジットカードで使える決済スキームですが、ブランドではない。QUICPayの立ち位置、目指すところはETCに近いと言えます」(吉田氏)
それはユーザー視点に立つと、より分かりやすいだろう。我々ユーザーは有料道路を使う時に、「ETCが使えるゲートか」を判断するだけであり、クレジットカードのブランドやイシュアを気にすることはない。QUICPayもETCと同じく、「QUICPayが使えるか」だけをユーザーが考えればよい世界を目指している。
「iDとちょっと違うのは、あちらはドコモと三井住友カードが『ブランド事業』として運営されています。一方、QUICPayはJCBが一手に提供しているサービスですが、それ自体を事業として運営する考えはほとんどないのです。我々の事業主体はイシュアとしてのJCBなどであって、QUICPay単独でいくら儲けましょうというスタンスではない。(iDとは)ビジネスモデルが違うのです」(青木氏)
JCBのスタンスは、クレジットカードの利用促進ツールとしてQUICPayを用意して、自身も含めたイシュア事業者に使ってもらうというものだ。ETCのような決済スキームに徹することで、「QUICPayは各イシュア事業者が主体になれる仕組み」(吉田氏)を前提にしている。自身がすでに確立されたブランドとイシュアビジネスを持つJCBと、クレジット決済分野に新規参入するドコモという背景の違いが、QUICPayとiDの「方向性は似ているが、ビジョンが異なる」という形に現れているようだ。
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