2006年はMNPがあるため、端末販売数が大きく伸びる“特需”が予想されている。また、その中で割安なエントリーモデルの販売が増えるという声もあるが、川崎氏はその予測に懐疑的だ。
「安いエントリーモデルが動くという声は確かにあるのですが、実際の売り上げを見てみると、日本国内ではハイエンドモデルの方が販売台数が多い。ユーザーのニーズは、明らかにハイエンドモデル志向です」(川崎氏)
日本市場の場合はインセンティブ制度の発達という背景もある。さらに今年に限れば、ドコモを筆頭に各キャリアが積極的に新端末を投入しており、それに押し出される形で、それほど古さは感じない先代や先々代のハイエンドモデルの店頭在庫が大きく値下がりしそうだ。
また2006年より先を見えると、端末市場の飽和により“買い換え需要”の喚起が大きなテーマになる。
「日本の携帯電話市場はすでに飽和していまして、買い換え需要が中心になっています。既存のユーザーにどうしたら『買い換えていただけるか』が重要になっています。現在の市場構造を鑑みますと、ユーザーがすでに持っている端末と同程度の性能を持つ安いエントリーモデルに買い換えるとは考えにくい。ユーザーの買い換え意欲を喚起できるのは、魅力ある新しいサービスや機能のニーズです。買い換え市場を循環させるためにも、ハイエンドモデルが重要なのです」(川崎氏)
世界的に見て割安なエントリーモデルが重要なのは、主要先進国を除けば、BRICsを筆頭とする新興市場がまだまだビジネスの規模が大きいからだ。しかしハイエンド中心で携帯電話の普及が進んだ日本では、「より魅力あるハイエンド」が出続けることが重要になる。
「どれだけ魅力ある機能やサービスが、ハイエンドモデルに盛り込まれていくか。これによって(今後の)日本市場の大きさが決まってくるでしょう」(川崎氏)
現在、携帯電話向け半導体メーカーの多くが、ベースバンド機能とアプリケーションプロセッサーなど様々な機能を統合した「1チップLSI」を推し進めようとしている。しかし、川崎氏は携帯電話のビジネスにおいて「1チップ化が必ずしもよいとは限らない」と指摘する。「チップサプライヤー(半導体メーカー)の観点から言うと、1チップは訴求しやすいから他社はアピールしているわけですけれど、端末メーカーは(メリットがあるのかどうか)意見が分かれています。(1チップと2チップの)どちらが主流になるかは、まだ不分明です」
必ずしも1チップ化に市場が流れるとは限らないということもあり、ルネサスでは1チップ構成と2チップ構成のどちらが主流になっても対応できる体制を整えているという。さらに川崎氏は、日本市場を視野に入れると「単純に1チップならいいというわけではない」と話す。
「日本市場に限ると、同じ1チップでも『使える1チップ』かどうかが重要になります。周知のとおり、日本ではキャリアが端末の仕様を決める主導権を持っていますが、海外の半導体メーカーの1チップソリューションの場合、日本のキャリアのニーズや仕様にきちんと合った1チップが提供できない場合がある。実際、あるキャリア向けに提供されている海外サプライヤー製の1チップ製品では、キャリアの求めるニーズに合わず、我々のSH-Mobileがコンパニオンとして使われていたりするのです。これは結局、(1チップ化したことで)ムダなところが出ているということです。ルネサスでも1チップLSIの『G series』を準備していますが、これはNTTドコモと共同開発したものであり、キャリアの求める性能や機能をしっかりと提供する『使える1チップ』です」(川崎氏)
一方、2チップはベースバンド部分とアプリケーションプロセッサー部分の組み合わせが選べるため、1チップLSIに比べると開発の自由度が高く、ムダも出にくい。そのためあえて2チップ構成を支持する携帯電話メーカーもいるという。
このようにルネサスはハイエンド市場の引き続きの発展と拡大を視野に入れている。その中で、注目しているものの1つがスマートフォンだ。
「今後はスマートフォン市場がいよいよ本格化すると思っています。具体的には、オープンOSを採用したアプリケーションリッチな携帯電話が、ニッチ市場のものではなく普及帯のボリュームゾーンに入ってくる。スマートフォンは今後、携帯電話全体の台数と比較して急激に伸びていくと思いますね」(川崎氏)
現在のスマートフォンを見ると、欧米で「ホワイトカラーのiPod」と評されるとおり、ビジネスユースの印象が強い。しかし川崎氏は本質的なスマートフォンは、エンタープライズ市場を中心とするビジネス向けだけのものではないと強調する。
「(今後は)コンシューマー向けにもオープンOSを使ったスマートフォンが広がってくる。それがミッドレンジクラスまで拡大すると思います。ルネサスが狙っているのはまさにここです」(川崎氏)
日本市場の携帯電話契約数はすでに9000万を超えており、市場の飽和と成長率低下への懸念も聞かれる。しかし、3Gの本格化、音楽・映像分野の市場拡大、そしてスマートフォンの主流化など、ハイエンドモデルを中心とした進化が続けば、「日本市場は引き続き発展する」と川崎氏は話す。
「確かに新規契約分の市場規模は減少しますが、携帯電話の中身が進化していく。日本市場は今後もしっかりと存在していくでしょう」(川崎氏)
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