「交通政策白書」が示す地方交通の現状と将来杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2015年07月31日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

第II部 交通権の確保に「コンパクト・プラス・ネットワーク」

 白書の第II部は「地方創生を支える地域公共交通の再構築」と題して、交通不便地域の現状をデータで示しつつ、地方自治体の取り組みと、それを推進する国の法整備などを報告している。

 地方交通において緊急の課題は、高齢化によってクルマの運転を控えようと思っても、代替する公共交通手段がないという状態である。高度成長期以降、マイカーの普及によって公共交通の利用者が減り、鉄道や路線バスは衰退した。しかし、その結果として、マイカーを手放した途端に身動きが取れなくなってしまう地域が増えた。

 近年、高齢者の免許返納率は高まっている。しかし、買い物、通院に不便な地域では、運転技術が衰えてもマイカー頼み。その結果、直近10年間で高齢者の死亡事故が増えているという。死亡事故の原因は運転ミス、漫然運転、安全未確認の3点で、事故全体の4割に達する。

 国土交通省は、地方の交通不便地域解消のため、2014年7月に「国土のグランドデザイン2050」を策定した。今後の地域作りについては「コンパクト・プラス・ネットワーク」という方針を示している。過疎地域の中心に「小さな拠点」となる集落を作り、小さな拠点内では徒歩圏に商店や診療所など日常生活に不可欠な施設・機能を集める。居住地と小さな拠点の間はコミュニティバスを巡回させたり、乗合タクシーなどデマンド交通を整備する。

 地方都市は経済・生活圏の形成に必要な都市のコンパクト化と、小さな拠点との交通ネットワークを形成する。さらに、コンパクト化した都市間を結ぶ。都市のコンパクト化については、都市内をマイカー無しで移動できるよう、BRTやLRTを整備する。恐らく都市内ではLRT、都市と小さな拠点はBRTで結ぶというイメージになるだろう。

 白書では小さな拠点の例として、兵庫県豊岡市のコミュニティバス「イナカー」、デマンド交通の「チクタク」などを活用した事例をはじめ、福岡県八女市、千葉県市原市、高知県黒潮町のコミュニティバスとデマンド交通、山口県長門市のNPOによるデマンド交通、島根県津和野町の上下分離型タクシー事業などを紹介している。

 「コンパクトシティ」の事例としては、富山市のLRTの活用事例、岐阜市と新潟市のBRT、八戸市と熊本市のバス路線再編を挙げている。さらに、自治体の地域を越えた広域な取り組みとして、北近畿タンゴ鉄道(京都丹後鉄道)を運営する「WILLER TRAINS」を中心としたと京都丹後地域(関連記事)、奈良県のバス路線再編、薩摩川内市の海上交通ネットワークを挙げた。

 このほか、民間事業者による公共交通利用促進の取り組み、住民の高齢化に合わせた健康的なまち作りや買い物支援、観光誘客の取り組みとして肥薩おれんじ鉄道、瀬戸内海のクルーズとサイクリングを組み合わせた施策、三陸鉄道の震災学習列車などを紹介している。

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