検証! 日本の自動車メーカーがやるべきこと池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2015年08月03日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタとホンダ

 では、世界一を争うトヨタはどうかといえば(関連記事)、極めて高度な生産性改革プログラムが進行中だ。ローコストで生産キャパシティの融通性を高めつつ、より良いクルマを生産していくためのモジュール化が進められている。ビジネスの場では、正しい改革が必ずしも実を結ぶかどうかは分からないとはいうものの、少なくとも論理性の高い改革が進められていることは間違いない。論理と決意と実行は全て揃っている。後は結果だけだ。

 日本のメーカーで最も迷走中なのはホンダだ。第二次大戦中の日本軍と同じように、戦線を拡大してリソースを薄く広く展開し、戦力の逐次投入になっている。これは由々しき問題だと思う。

 コアになる戦局に1つずつ丁寧な対策を施していかないといずれ兵站が途切れかねない。ホンダの場合、アキレス腱は「スポーツ」というキーワードにあると思う。好きこそ物の上手なれという言葉があるが、ホンダの場合下手の横好きになっている。技術がないのではない。好きなことを続けるための基盤がいつも無策なのだ。

 例えば、第3期「F-1」だ。2008年限りで撤退した直後(関連記事)、たった1ポンドでチームを丸ごと買い受けたブラウンGPが翌年の開幕戦でデビュー・ウインを遂げている。それ自体は結果論に過ぎないが、問題は「やりたいこと」をやり続けられる環境が作れていないことだ。

 簡単な話ではないのを承知で言うが、F-1参戦を単なるコストセンターととらえて余剰金で賄うから、本業の状況によって突然プロジェクトが途切れてしまう。自動車メーカーにとってレースは道楽ではないのだ。ホンダという営利企業が何のためにF-1をやるのか、そのリターンは何かという視点がない。人材育成が目的だと言いながら、それではとてもソロバンに合わない予算を投入するのでは目的があるとは言えない。

 端的に言えば、あれだけF-1をやっていながら、そのイメージが最も浸透するはずの欧州でシェア率1.37%とはどういうことなのか。F-1が大嫌いな北米のシェア11.26%と比べてあまりにも低い。ホンダはF-1参入に際して、欧州でのシェア率を上げる明確な戦略を立てていない。販売に寄与するから「宣伝としてのレース」が成立するのだ。当然、F-1チームには専属の広報宣伝チームを組み込んで、そこに欧州戦略での到達目標を掲げ、着実にそれをクリアしていけば、F-1は立派なプロフィットセンターになり得る。そうでなければ、もっとダイレクトにレースをビジネス化して黒字にするしかない。大人の世界では、予算垂れ流しで成果が上がらないことは許されない。打ち切りになってから恨みがましいことを言っても通用するわけがないのだ。

2015年4月に発売となったホンダのオープンスポーツカー「S660」 2015年4月に発売となったホンダのオープンスポーツカー「S660」

 S660もNSXもみな同じ轍(てつ)だ(関連記事)。ただワンノブゼムの製品として作るならスポーツカーはあまりにもコスト回収的に勝算の無い商品だ。膨大な開発費がかかり、その割に売れないということは最初から分かっている。このまま行けば何年か先に惜しまれつつ、後継モデルが無いまま生産中止が発表され、そのときになって突然大量のバックオーダーが入り、中古車価格が高止まりする。いつか見た光景が繰り返し再現されるだけだ。学習していない。本来これもF-1同様、どうやってプロフィットセンターにするかの絵図は描かなくてはならないはずなのだ。それが営利企業でプロジェクトを続けるための最低限の合格ラインだ。

 私事ではあるが、筆者は30年前、ホンダディーラーで整備士免許をとり、初めて買ったクルマはシビックだった。ホンダには本当に頑張って欲しい。

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