「S660」はホンダの問題を解決できない池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2015年07月06日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 2015年時点での国内自動車メーカーのグローバル戦略は、乱暴に分けて2つある。1つはこれまでクルマに乗らなかった新規マーケットを開拓し、拡大していく戦略。もう1つは既にクルマを使っている人たちに新しい付加価値をもたらす商品で買い替えを促す戦略だ。

 世界で1000万台を売りさばくグローバルトッププレイヤーの一角、トヨタは、それらを両面展開しているのだが、トヨタ以外のメーカーはそんな二正面作戦を展開する体力がない。それ故に、原則的にはどちらか一方にならざるを得ない。

100万円以下のBセグメントが必要な理由

 前者の戦略によって新規自動車ユーザーの開拓を企図するとき、最重要ターゲットになるのはインドとASEAN諸国だろう。インドは人口12億人。既にモータリゼーションの黎明期を迎えている。販売台数ベースで300万台の市場だが、まだまだ成長が始まったばかり。中国の人口が14億人で、マーケットが2300万台であることから考えれば、同等の人口ポテンシャルがあるインドもいずれ2000万台オーバーのマーケットになると期待されている。

 ASEANは人口6億人のマーケット。現在300万台規模だが、こちらも600万以上に伸びるという見方がある。現時点の世界トータル販売台数が1億台なので、インドとASEAN合わせて3000万台になろうかという規模がどれほどのものか分かるだろう。

 これらの新規自動車需要を獲得していくためには、100万円以下のAセグメント、Bセグメントの小型車が必須だ。安価でできのいいFF車がないと戦略は実現できない。それを最も上手にやっているのはスズキで、日産と三菱がこれを追っている。

 現状で2300万台、世界最大のマーケット規模を持つ中国の攻略も抜きには語れない。都市部の富裕層はもはや新興国マーケットではなく、先進国型になっている。しかし今後のマーケットの成長余地を考えると、内陸部の初めてクルマを持つ層に向けた安価なAセグ、BセグのFF車が求められるだろう。そういうフェーズに入れば、1000万台単位での増加の可能性も十分ある。

 しかしPM2.5を規制するために、ナンバープレートの交付が抽選になっており、その裁量権は金銭で解決できる裏のシステムができあがっている。こういう部分が今後どうなっていくかによって状況は変わる。中国は魅力的な成長余地があるが、自由主義マーケットと言い切れない部分が残っている点が厄介なのだ。

 後者の戦略の重要マーケットは、旧東欧諸国と西欧の移民層だ。彼らは徐々に経済成長の階段を上がっているため、少しずつクルマに求めるものが変化しつつある。ここに向けた商品はいわゆる先進国向けのBセグメントだ。トヨタ、ホンダ、マツダはここを狙ったクルマ作りを行っている。世界的に見て最も上手くやっているのはフォルクスワーゲンだろう。ところがギリシャ問題やウクライナ問題などEUの舵取りがぐらついており、高い失業率を背景に自動車需要は縮小している。ポテンシャルはあるが、しばらく調整局面が続きそうなのだ。

 日本はといえば、これまで見てきた国とはだいぶ需要構造が違う。ダウンサイジングによって、ユーザーがDセグやCセグから、Bセグと軽自動車(Aセグ亜種)に降りてきた特殊なマーケットだ。下から上がりつつある旧東欧圏とは移行の方向が逆だが、商品的にはほぼ同じだ。

 残る北米マーケットはグローバル市場と全くリンクしない巨大なローカル市場だ。何しろフォードFシリーズやシボレー(GM)・シルバラードといったピックアップトラックが車名別ランキングでトップを取るマーケットである。他マーケットでもそこそこ売れる四輪駆動由来のSUVはまだしも、売り上げダウンに喘ぐDセグメント・セダンも北米では依然好調だ。トヨタ・カムリ、日産アルティマ、フォード・フュージョン、ホンダ・アコードなどが車名別トップ10に入ってくることも世界トレンドとはかけ離れている。

 全体を見渡してみると、国ごとに事情はさまざまながら、100万円以下の安価なBセグメントを主力に戦う新興国マーケットと、100万円以上の高付加価値Bセグメントで戦う先進国マーケットにほぼ収斂し、それらとは全く別の道を行く北米が存在するのが現在のグローバルマーケットだと言えるだろう。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.