Aセグメントのクルマ事情池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2015年08月24日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

Aセグメントの現在

 では、現在販売されているAセグメントがそういうものかどうかは少々気に掛かる。まずは、現在の主要なAセグメント車を挙げてみよう。ドイツでは「フォルクスワーゲン up!」、「MMC スマート・フォーツー」。イタリアでは「フィアット・パンダ」、「フィアット 500」。フランスでは「ルノー ツインゴ」、「プジョー 108」、「シトロエン C1」。インドは「タタ・ナノ」。日本でははっきりとAセグメントと言えるのは、トヨタの「iQ」と日本未発売の「アイゴ」、スズキならインドで出資しているマルチ・スズキ・インディアの「アルト800」や「ワゴンR」、タイ生産の「Aスター」などがある。

プジョー/シトロエンとトヨタが共同開発したAセグメントモデル。写真左からプジョー107、トヨタ・アイゴ、シトロエンC1。プジョーは既にモデルチェンジして108になっている プジョー/シトロエンとトヨタが共同開発したAセグメントモデル。写真左からプジョー107、トヨタ・アイゴ、シトロエンC1。プジョーは既にモデルチェンジして108になっている

 もっともトヨタやスズキの例で分かるように、日本のメーカーは日本で知られていないアジア専用モデルを数多く販売しており、特に通常のBセグメントより少し小さいサブBと言われるクラスまでを含めるともっと増える。サブBとAセグの境目はグラデーション状態で、本当のところ実車をみるだけでなく、実勢販売価格や、ユーザー層などを考慮しないと何とも言えない。日本未発売のモデルに関しては筆者もそこまで掴みきれない。この領域にはダイハツはパッソ/ブーンをベースにした「マイヴィ」をマレーシアのプロドゥア社と提携して売っているし、ホンダもタイで「ブリオ」を生産している。スズキはアジア向けというよりは東欧向けに「スプラッシュ」を販売しているが、これは日本国内でも購入できる。

スズキがハンガリー工場で生産するスプラッシュ。主に東欧圏をターゲットとするサブBセグメント スズキがハンガリー工場で生産するスプラッシュ。主に東欧圏をターゲットとするサブBセグメント

 小型車作りに関しては、日本は世界最先端のノウハウを持っていると言ってよい。そこは長年軽自動車を作り続けてきたアドバンテージだ。日本のメーカーの悩みは、グローバルなAセグメントと軽自動車のサイズが異なる点だ。

 軽自動車は例外なく全長3395mm、全幅1475mmで作られている。これは法律の定める軽自動車の外寸規定のせいで、全ての車種がその制限を一杯に使い切っているのである。すなわち、法規定されているサイズが小さすぎることを意味している。

 もちろん日本の、それも地方の道路には隘路も多く、絶対的なサイズの小ささが求められる局面があるのは確かだが、4つのタイヤを使って走る機械として自然に設計したら全幅は1475mmにはならない。上で挙げた各国のAセグメントは全長的にはほぼ日本の軽に近いが、幅は概ね1600mmのラインだ。

 このサイズにおいて、125mmの差はあまりに大きい。例えば、左右の車輪の距離(トレッド)が10cmも違えば、サスペンションアームの長さが劇的に変わってくる。これはテコの長さでもあるので、ばねもより柔らかいものが使えて乗り心地も改善できる。ペダルの配置も余裕ができてより適正化されるだろうし、エンジンの搭載高さも変わってくるだろう。今よりはるかに自然な乗り物になる可能性があるのだ。

 セグメントにはサイズ規定が存在しないにもかかわらず、各セグメントは現実的にちゃんと合目的なサイズに作り分けられている。そう考えるとAセグメントの幅1600mmには必然性があると考えられるわけだ。当然、軽自動車のサイズの規制を外したら、その近辺に収束するはずである。

 排気量については800ccから1000ccあたりが主流で、日本の軽は660ccで排気量が小さい。ただし、日本の軽はターボ付きのモデルが多く、パワーだけなら全然見劣りしていない。というよりグローバルなAセグメントモデルには高コストなターボをつけたモデルは存在しない。1000ccの3気筒の方がコストと性能のバランスが良好だからである。

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