さて、ここで再びAセグメント各モデルを検証してみよう。フォルクスワーゲン up!、MMC スマート・フォーツー、フィアット 500、ルノー・ツインゴ、トヨタ iQ。これらは確かにAセグメントだが、新興国用に作られたクルマではない。価格的に見て先進国で小さいクルマに乗りたい人のためのものだ。
現在の新興国向けBセグメントの価格レンジは70万円ラインの争いになっている。当然これより下を受け持つAセグメントはもっと安価でなくてはならないことになる。目標は50万円のラインで、マルチ・スズキのアルト 800はこのラインにいる。上で挙げたクルマはとてもそこの価格帯に参入できない。クルマによっては100万円オーバーに達し、先進国向けBセグメントと同一価格帯のものもあるくらいだ。
つまり新興国でボトムエンドを受け持つAセグメントの戦いでは、フィアット・パンダ、プジョー 108、シトロエン C1くらいしかライバルが存在しない。にもかかわらず、シェアの伸びしろは4割増レベルで予想されているのである。これは日本のメーカーにとって大きなチャンスだ。例えばもし国内の軽自動車の枠を全幅1600mmに、排気量を1000ccに上げて、軽自動車をAセグメントの標準に揃えれば、日本のメーカーは、国内モデルをそのまま輸出して伸張著しいアジアマーケットを席巻できるはずなのである。
両方作ればいいじゃないかという声もあるが、自動車メーカーはどこもリソース不足で苦労している。特に会社の浮沈がかかった主力モデルの開発を任せられるエンジニアは限られている。そういうリソースを一局に集中投下できる環境を整えることは戦略的に大きな意味がある。大規模な車種統合だと考えると分かりやすいだろう。それは日本経済全体にとっても大きなプラスになるはずだ。
そうなれば、日本国内で販売されているさまざまな軽自動車をバリエーションとして輸出できる。軽自動車にはハッチバック、ミニバン、ワンボックス、トラック、ダンプ、オープン、スポーツと、普通車に存在するあらゆる形態のクルマが存在している。もちろん200万円もするようなモデルが輸出できるとは思えないが、それら多用途で実績のある軽自動車が新興国の生活を便利に変えられるとしたら、まさにAセグメントとして相応しい活躍だと思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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