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» 2015年08月24日 08時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:Aセグメントのクルマ事情 (2/4)

[池田直渡,ITmedia]

こうもり傘に4つのタイヤを付けたクルマ

 もう1台、今のAセグメントへ繋がる流れとして、筆者が思い出すのは「シトロエン2CV」だ。このあたりは「ワールド・カー・ガイド シトロエン」(ネコ・パブリッシング)を参考に書いていこう。

 シトロエンの副社長であったピエール・ブーランジェは、休暇で訪れたフランスの田舎町で、人々が荷物の運搬を手押し車で行っているのを見掛けて衝撃を受ける。自動車が発明されて40年以上が経過しているにもかかわらず、庶民の生活は全く改善されていなかったのである。

 ブーランジェはすぐさま新型車の開発プロジェクトを立ち上げる。1935年のことだ。コンセプトは「こうもり傘に4つのタイヤを付けたクルマ」だ。それだけではない。彼は開発チームに具体的な目標を設定する。

 「2人の大人と50キログラムのじゃがいもを積んで、60km/hの最高速度が出せ、100kmあたり5リットルの燃料で走れるクルマを設計せよ。しかも農道などの悪路でも、かごに積んだ卵が割れない快適な乗り心地を実現し、女性でも楽に運転できるような構造/操作系でなければならない。価格はトラクシオン・アバンの3分の1だ」。

 トラクシオン・アバンとは当時のシトロエンの主力モデルである。シトロエンは当初から大量生産方式を取り入れており、欧州では価格戦略で販売を伸ばしてきた会社だ。つまりそれなりに安いクルマだったのである。その3分の1の価格を目指すということが、いかに大変なことは分かるだろう。開発は第二次大戦の勃発で遅れ、2CVは終戦から3年後の1948年に発売された。しかし、以後、1990年まで生産が続けられ、世界屈指の生産台数を記録するのだ。

 2CVの設計目標を眺めると、庶民が現実に困っている事象を開発者が把握し、それをクルマという製品によって解決するのだという意思を感じる。科学も技術も人々の明るい未来に役立つものであろうとしている。そういう意味でAセグメントは、ほぼ20世紀の全ての期間に渡って偉大な役割を果たしてきたのである。

シトロエンが2CVを開発した背景には、庶民の生活に役立つクルマという明確なビジョンがあった。これはAセグメントとしてまさに理想の姿と言える(写真:Wikipedia) シトロエンが2CVを開発した背景には、庶民の生活に役立つクルマという明確なビジョンがあった。これはAセグメントとしてまさに理想の姿と言える(写真:Wikipedia

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