最も印象に残ったのは、輸出業をされているD社長のエピソードです。
Dさんはあるときから、会社は順風満帆なのに、なぜか退屈だと考えるようになりました。4歳年上の奥さまにそう話したところ、1週間後、銀行に預けていたお金がほとんどなくなっていたそうです。Dさんが慌てて奥さまに連絡をすると、このように言われました。
「あなたが前から欲しがっていたベンツとバイクを買いました。それと、行きたがっていた海外旅行も手配しました。お金はほとんど残っていませんよ」と。
Dさんは慌てて帰宅し、奥さまを怒鳴りつけたのですが、奥さまは夕食の支度の手を止めずに、こうおっしゃったそうです。
「人間いつ死ぬのか分からないのに、退屈な毎日はよくありません。お金があって余裕があるのはいいことですが、以前のあなたは仕事がとても楽しそうでした。なのに、最近はあくびばかり。だから、今まであなたの熱意があったからこそできたお金は、自分の“ごほうび”に使ってください。やがて、ベンツに飽きて、バイクにも飽きて、旅行にも飽きたら、また仕事がしたくなって次の夢が見つかりますよ。それまでの生活は、私に任せてください。
今のあなたは手水鉢(ちょうずばち)の亀状態です。あなたが水の中に潜ろうがひなたぼっこしようが、仕事は従業員がまわしてくれているので、引退しても大丈夫です。でも、退屈は人をダメにします。夢は人を輝かせ、生きる希望を連れてきます。あなたなら、また新しい夢を見つけてそれを実現できますよ。旅行は今月末からでいいですよね?」
まるで明日の天気でも話しているかのように、おおらかな奥さま。Dさんはそんな奥さまを見て、まだ若くてかけ出しのころ、夢について喫茶店で2人でいろいろ話していたことを思い出すそうです。
夫のお尻をうまくたたいてやる気を起こさせる。奥さまのほうが1枚も2枚も上手ということでしょうか。夫に出世してほしいなら、このぐらいのしたたかさがないとパートナーは務まらないようです。
今回紹介したエピソードは、冒頭の本田宗一郎の言葉のように「小さくまとまらずもっと大きく」と背中を押してくれるものばかり。出世された方は、多少の無理難題を出されても“なぜかやる気にさせられる”というパートナーを見つけておられるようです。
親よりも長く一緒に居るパートナー。相手のことを何よりも大事に思い、秘めたるパワーを引き出すのは、女性特有のなせる技のようです。
1988年10月16日大阪府生まれ。16歳のときに処女作『デリンタ(悪魔の子)と呼ばれた天使たち』(文芸社)でデビュー。このほか『国民の声』(文藝書房)に寄稿、『罪追人』(文藝書房)、今春『赦れる天秤』を刊行予定。
京都ノートルダム女子大学卒業後、北新地のクラブへ。クラブ「城」閉店後、銀座に移籍。銀座40周年の老舗「クラブセントポーリア」でナンバーワンの座を手にして、その後26歳の誕生日に某有名店のママに就任。
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