過去の汚名を背負いながら戦うファイター・秋山成勲という男赤坂8丁目発 スポーツ246(2/3 ページ)

» 2015年09月17日 08時00分 公開
[臼北信行ITmedia]

日本と韓国の架け橋に

 秋山は日本国籍を取得しているが、自ら常々公言しているようにルーツは在日韓国人四世。その“誇り”を胸に自らが日本と韓国の架け橋になろうと、日本でジムを経営しながら韓国でもタレント活動を行うなど両国間を飛び回る多忙な日々を過ごしている。第二の母国・韓国では複数の大手企業CMにも出演。いまや絶大な人気を誇り、押しも押されもせぬスーパースターとして、チュ・ソンフン(韓国名)の名は韓国国内において広く浸透している。

 しかしその一方で日本において秋山は格闘家として数々の戦績を築いたはずの母国であるにも関わらず、ヒール扱いされる傾向が強い。2001年のアジア柔道選手権(ウランバードル)、2002年のアジア大会(釜山)の両大会で日本代表として男子柔道81キロ級金メダルを獲得。こうした輝かしい実績を引っ下げた秋山は2004年7月にプロ格闘家へ転向すると、2006年10月9日にはHERO'Sライトヘビー級王座を獲得し、たった2年でチャンピオンベルトを巻くなど急進化を遂げた「日本格闘界の怪物」として順調に階段を上がっていくかのように見えた。

 しかし、その“怪物性”が別の意味で覚せいしてしまったのが、同ライト級王座獲得からわずか2カ月後の同年12月31日の大晦日決戦。京セラドーム大阪で行われた「K-1 PREMIUM 2006 Dynamite!!」(FEG主催)のメインイベントで組まれた桜庭和志との一戦だった。伝説の格闘家と言われたホイス・グレイシーに勝利するなど“グレイシー・ハンター”の異名を持った桜庭を秋山は序盤から圧倒し、最後はロープ際でマットを背にする相手に容赦なく猛烈なパウンドを浴びせ続けた。その数は100発強――。1ラウンド5分37秒、レフェリーがストップをかけ、ついに試合が止められた。

 秋山のTKO勝利とアナウンスされたが、リング上の雰囲気は明らかにおかしかった。試合中も桜庭は「すっごい、滑るよ!」「タイム、タイム!」などとレフェリーに対し、何度も何度も絶叫。試合終了後も桜庭は納得せず、絶妙のタイミングでタックルに入っても異常なまでにヌルヌルと滑る秋山の身体によっていとも簡単にスルリとかわされてしまったことに「反則だろ!」とクレームをつけ続けていた。この当時リングサイドで取材を続けていたが、後味の悪さが残ったのは言うまでもない。

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