水害復旧に鉄道の出番なし? 利益優先が国土を衰弱させる杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2015年09月18日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


大量のがれき処理をどうする?

 鬼怒川決壊のニュース映像は衝撃的だった。家が泥水に流され、町が水没する様子は東日本大震災の津波を想起させた。宮城県では津波被害に遭った方が、また水難に遭っていると聞き胸が痛んだ。現在も復旧作業中で、各地からボランティアの皆さんも駆けつけているという。こんなとき、小遣い程度の募金しかできない自分が情けない。

 鉄道に関して言えば、今回被災し、いまだ運休区間がある関東鉄道、小湊鐵道、野岩鉄道、東武宇都宮線、JR東日本只見線はどれも旅の魅力がある路線ばかり。復旧の後はぜひ訪れたいし、機会を見つけて沿線の魅力を広めていきたい。しかし、それは復旧後の話。今は現状を改善すべきである。1日も早く復旧してほしい。

9月16日現在の鉄道不通区間(出典:国土交通省) 9月16日現在の鉄道不通区間(出典:国土交通省

 ところで、復旧、復興作業の段階に入り、東日本大震災と同じ問題が起きている。大量のがれき処理だ。報道によると、鬼怒川と小貝川に挟まれた茨城県常総市の被害が大きく、茨城県の推計では災害廃棄物が約2万4000トンに及ぶという。これは常総市の年間廃棄物量の約1.36倍にあたる。たった2日で1年4カ月分の廃棄物が発生したという計算だ。

Googleが提供する被災地域の航空写真(出典:クライシスレスポンス - Google.org) Googleが提供する被災地域の航空写真(出典:クライシスレスポンス - Google.org

 この廃棄物発生の見積もりは「床上浸水が1世帯当たりの4.6トン、床下浸水は1世帯当たりの0.62トン」という環境省の基準で機械的に算出しただけだ。実際にはどちらでも家屋取り壊しとなる事例があるだろうし、がれきはもっと増える。共同通信が各紙に配信した記事では、常総市だけで十数万トンのがれき発生が予見されるという。

 鬼怒川は下流で利根川に合流するため、鬼怒川が押し流したがれきや土砂、倒木などが利根川を伝って千葉県の銚子港に達している。インターネットでは、大量の廃棄物で港が埋め尽くされた様子も報告されている。このままでは漁ができない。

 この水害廃棄物の処理に関する動きが伝わってこない。報道では常総市内6カ所に準備した仮の廃棄物置場は既に満杯で、他の市町村や民間企業の協力が必要。ところが、現地と周辺地域ではトラックや車も水没して、輸送手段も水害廃棄物と化している。

 今、この地域に鉄道貨物の出番はないのだろうか。

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