水害復旧に鉄道の出番なし? 利益優先が国土を衰弱させる杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2015年09月18日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

災害輸送に必要な鉄道設備とは

 JR貨物が東日本大震災でがれき輸送を実施しやすかった理由は、被災地の路線がJRグループのJR東日本が保有していたからだ。JR東日本の在来線の線路はすべてつながっている。東北新幹線と並行在来線の第3セクター化で、会社としては飛び地になった路線もあるけれども、線路はつながっている。

 そう考えると、今回の水害は条件が異なる。銚子港はJR総武線が通じているから早期に対応可能としても、常総市を貫く鉄道路線は関東鉄道という別会社である。しかも被災している。順次復旧は進んでおり、9月16日現在は取手〜守谷、下妻〜下館間が復旧。ただし、守谷〜下妻間が不通。この不通区間が最も被害の大きかった地域である。

 前向きに考えれば、守谷駅と下妻駅は被災地の最前線の駅でもある。ここから鉄道コンテナに水害廃棄物を載せて、JR路線を経由すれば、大量の廃棄物を輸送できる。今回の水害で国の直轄国道や高速道路の不通区間はないというし、東京まではさほど遠くはない。しかし、廃棄物輸送を貨物列車に任せると、現地の道路をもっと効率的に使える。廃棄物輸送トラックが減ると、緊急車両や復旧建設関連の資材、車両の通行量を増やせる。

 鉄道輸送に活躍の機会がありそうだ。この場合、鉄道による廃棄物輸送のハードルは、複数の鉄道会社をまたぐという部分である。複数の鉄道会社間で車両を乗り入れるためには条件がある。まずは線路の幅が同じこと。関東鉄道とJR在来線の線路幅は同じ。問題ない。次に動力。電化方式が異なると、電車や電気機関車は直通できない。これもクリアできる。関東鉄道は非電化路線だから、ディーゼル機関車で貨車を引けば良い。

 次に信号装置。鉄道会社によって、自動列車停止装置などの保安装置が異なると直通できない場合がある。これは車両の改造が必要だけど、貨車だけ直通させるなら問題ない。駅で機関車を交換すれば良いからだ。次に路盤の規格。ディーゼル機関車は気動車や電車より重いので、路線の規格を軽めの車両に合わせている場合は進入できない。これもクリア。関東鉄道は過去に貨物輸送を実施していたし、現在も稼働中のディーゼル機関車がある。

 これらの条件が整っても、根本的な問題がある。「線路がつながっているか」だ。関東鉄道は取手駅でJR東日本の常磐線、下館駅でJR東日本の水戸線に乗り換え可能だ。しかしそれは人の場合だ。車両が直通するためには線路の接続が必要だ。関東鉄道は、取手駅ではJRの線路と接続されていない。だから取手経由の貨物輸送は不可能。しかし、下館駅ではつながっている。これは、かつて国鉄と貨車を直通させていた名残。国鉄時代に臨時の旅客列車が直通した実績もある。

 下館駅の接続線は現役で、新型車両や中古車両の受け渡しなどで使われているという。これでもうお膳立てはできたも同然。後は関係各位が実現に動けば、常総市の被災廃棄物は貨物列車で地域外へ持ち出せる。被災地から廃棄物が減ると復興もはかどるはずだ。

関東鉄道は取手〜水海道間が複線。日本の鉄道では珍しい「複線非電化」区間だ 関東鉄道は取手〜水海道間が複線。日本の鉄道では珍しい「複線非電化」区間だ

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