初代レクサスLSが全ての面でベンツやBMWを上回っていたとは思わないが、少なくとも次世代の高級車がどうあるべきかという方向性において新しい価値観を打ち出していたのは間違いない。
それはその後の各メーカーのビジネス展開で明らかになる。ドイツ勢のみならずジャガーも含めてアルミボディ化へ舵を切るのだ。それはもちろん軽量化を目指したもので、豪華装備を次々と追加することによる重量増加を打ち消すことに成功する。しかしながらそれはあくまでも重量を増やさないだけで、減量が達成できた例は少ない。エコを目指すなら快適性を諦めれば簡単なのだが、それは諦められず、その増量分を高コストのアルミボディで必死に打ち消すという皮肉に満ちた技術競争が今も行われている。
動力面では、トヨタが伝家の宝刀ハイブリッドを投入し、一歩先んじた。欧州勢はこれにディーゼルで対抗したが、ほぼ五分と五分という結果になっている。ハイブリッド化のためにはモーターがまかなえる分、エンジンの排気量とシリンダー数を削って小型軽量化したいところだが、最廉価モデル用ならともかく、さすがにこのクラスのメインエンジンに振動で不利な直列4気筒やV型6気筒は使えない。結局商品性の面からV型8気筒を搭載するしかない。そうなるとハイブリッド化のメリットが目減りしてしまう。結果レクサスLSのハイブリッドは、必要な動力性能を他を圧する低燃費で発揮するものではなく、ベンツより少し低燃費だが、踏めばモーターが加勢してとんでもない加速を実現するというものになっている。
一方、欧州が選んだディーゼルエンジンは本質的に高級車には向かない。ディーゼルはエネルギー効率が高い。それは高い燃焼圧力のおかげなのだが、これが騒音源となって騒音と振動で不利になる。エンジンの低振動化はもちろん、エンジンマウントにも電子制御で振動を抑制する高価なダンパーを仕込み、車体各部にもふんだんに制音材を使っているので静かではあるが、同じ制音技術を用いたガソリン車には理論的に敵わない。最高を求めるLセグメントにおいて微妙なソリューションだが、ディーゼルはCO2排出量が少ないというメリットがあるのだ。
細かく見ればあちこち矛盾に満ちているが、それらの矛盾に次々と新技術を投入して挑んでいるという意味で、Lセグメントはとても興味深い。他のクラスがコストの檻の中で身を削るような我慢をしているのに比べれば、クルマの未来を切り開くための技術競争が今も健全に継続されているのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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