山手線新型車両、広告新システムに秘められた実力アリ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2015年12月04日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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広告価値は安全を担保してから

 第3世代のトレインチャンネルはリアルタイムの動画配信が「技術的には可能」だ。しかし、それを実現し、広告価値を高めるためには、解決すべき問題がある。

 山手線のE235系のトレインチャンネルは第3世代。ただし、ほかの第3世代とは異なる点が2つある。1つは画面数の多さ。動画広告の情報量が格段に違う。そしてもう1つは、通信経路がINTEROSへ組み込まれている点だ。前述したように、INTEROSは列車の故障検知系データ、機器稼働状況や新たに搭載された線路設備点検システムの監視データをリアルタイムで通信する。そこに車内ディスプレイ用の運行情報、文字ニュース、動画広告データも加わる。

 列車から地上のサーバに送られる機器情報は送信主体、広告などお客さま向け情報は受信主体だ。しかし、通信にインターネットプロトコルのTCP/IPを使っているから、どちらも送受信確認のための通信が発生する。インターネット関連は枯れた技術と言われ、安定して使えるとはいえ、普段からインターネットを使っていればそれが簡単にコケることは誰もが知っている。情報量が急増すれば輻輳(ふくそう)が発生し通信が途絶える。

 金融機関などは通信系統を二重化し、主系回線が切れても自動的に副系回線に切り替わる。専用線を使った安定確実な回線は高額だから、多少の断線リスクがあってもベストエフォード型のブロードバンドで二重化するなど工夫している。しかし、主系で通信品質が下がり、断線とは言えない程度にパケットロスが多発すると、切替プロセスが頻繁に起きて、両系共に通信断と同じ状態になるという危険性をはらむ。

 WiMAXに限らず、電波を使った回線サービスはベストエフォード型だ。最高品質へ向けて努力はするけれど、通信品質の保証はしない。ベストエフォード回線を使ったINTEROSの内部で、広告向け通信のデータを急増させると、安全面に必要な情報通信に影響がありそうだ。だから、電車へのリアルタイム広告配信は「技術的には可能」だけれど、運行の安全を担保した運用手順を作らなければ稼働できない。

 今回のE235系の故障はINTEROSが原因という。運行の安全管理と広告価値の向上の両面で期待されるシステムだけに、原因究明と万全な対策が急がれる。

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