「最新のテクノロジーを迅速に」 “最後のメジャーバージョン”「Windows 10」に導入した“WaaS”とは

» 2016年01月13日 08時00分 公開
[鈴木亮平ITmedia]

 「Windows 10は最後のメジャーバージョン。これからはWindows 10自体がどんどん進化をしていきます。これがWindows as a Service(WaaS)の概念なのです」――。

 そう説明するのは、日本マイクロソフトWindows本部のエグゼクティブプロダクトマネジャー、浅田恭子氏。ITmedia ビジネスオンライン編集部主催のセミナーイベント「働き方改善だけで終わらない、ビジネス革新へ踏み出す新プラットフォーム〜Microsoft Surface & Windows 10が持つ可能性〜」が2015年12月16日に開催され、Windows 10から導入したWindows as a Service(WaaS)についての講演が行われた。その内容をお伝えしよう。

有償のパッケージから無償のサービスへ

 最後のメジャーバージョンといわれている「Windows 10」。そのWindows 10から導入された「Windows as a Service」(WaaS)とは何か。今までのWindowsからどのように変わったか。浅田氏は「Windows 10では、Windows Updateを通じて新機能を常時、提供していく」と説明する。

 これまでもWindowsは、製品の正式リリース後も、新たなマルウェアや脆弱性への対応のため、セキュリティ更新プログラムやバグフィックスを定期的に提供するなど、Windows Updateを通じて随時アップデートを提供してきた。

 ただ、新しいOSや新機能がリリースされる場合、メジャーバージョンにアップグレードするためにはその都度ライセンスを購入する必要があり、そのバージョンアップは約3年ごとだった。この従来方針を大転換したのがWindows 10だ。

 Windows 10では、新しい主要機能がリリースされると、即座にアップデート/アップグレードデータをWindows Update経由で無償提供する。今までのように3年ごとのバージョンアップではなく、1年に2〜3回という短期間で定期的・継続的に提供していく形になった。

photo 短い単位で継続的に進化する

 「『Windows 10が最後のメジャーバージョン』といわれているのは、Windows 10自体が今後、継続的に短い単位で機能を強化、進化していくことを意味しているからであり、これがWaaSの概念なのです。そして、このWaaSの世界に、世界中のWindows デバイスが少しでも早く、1台でも多く入ってきてもらうため、Windows 7、そしてWindows 8.1のデバイスには、Windows 10 のアップグレードを無償提供しています」(浅田氏)

最新のテクノロジーをより早く

 なぜいま、OSを実質的に無償化するという戦略にかじを切ったのか。浅田氏によれば、その背景には大きく分けて2つの理由があるという。

 1つは、ユーザーを取り巻く環境の急速な変化だ。この数年間で急速にブロードバンド環境がより身近なものになり、あらゆるデバイスが世界中でネットワークに接続されるようになった。クラウドの普及やビッグデータの活用などで新しいサービスも数多く生まれ、利用されている。

photo 日本マイクロソフトWindows本部のエグゼクティブプロダクトマネジャー、浅田恭子氏

 こうしたテクノロジーの進化のスピードにいち早く対応していくために、迅速な変化が可能になるWaaSが必要なのだという。

 「テクノロジーの変化のスピードが早くなっている昨今、マイクロソフトとして開発した新しいテクノロジーをリリースするのに3年も待っていられません。最新のテクノロジーに対応し、新しい機能を最適なタイミングでユーザーに届けること、これがWaaSの1つ目の目的です」(浅田氏)

 もう1つは、巧妙化するサイバーセキュリティへの対応だ。以前は愉快犯的なサイバー攻撃が大半だったが、近年は、企業の機密情報が利益になるとして、組織的な攻撃が多くなってきている。標的型攻撃が話題になるなど攻撃手法も多様化しており、最新の脅威に対して素早く最新の対抗策を打つことが求められているのだ。

 浅田氏は、発見されたマルウェアに対してセキュリティパッチがリリースされても、企業のドメイン内PCに対して適切なセキュリティ更新プログラムが適用されていない実例を紹介し、セキュリティパッチがいき届かない現実があることも指摘。「WaaSでは、ダイレクトにセキュリティパッチを提供して常に最新の状態に保ち、セキュアな状態を実現させていく」と説明した。

各ユーザー、デバイスに最適なモデルを用意

 新機能を短い単位で継続的に提供していくWaaS。そのタイミングは、Windows Insider(Windowsの機能改善を目的とした無償のコミュニティ)、一般ユーザー、企業ユーザー、特定システムユーザーの4つのグループを分け、それぞれのユーザーグループに対して、リリースのタイミングを変えて提供する。

 まず、開発された最新のプログラム(ビルド)をマイクロソフト社内で検証し、その後、Windows Insiderにリリースする。そこで見つかった問題点などをフィードバックし、一般公開が可能となったタイミングで、一般ユーザーに提供が開始される。そこから約4カ月を経て、ビジネス向けに互換性などが強化されたバージョンが提供されるといった流れだ。

 「一般ユーザー向けのビルドを提供してから少しバッファを設けることで、より安定したものを企業向けに提供することができます」(浅田氏)

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 さらに一定期間後、次のビルドがリリースされ、同様のプロセスを経て定期的にアップグレードされていく──という継続的なサイクルの構築を想定している。

 一方で、オフラインのシステムなどを使う特別な業務システム向けに、セキュリティ更新プログラムとバグフィックスのアップデートのみを定期的に提供し、頻繁な機能アップグレードは提供しない固定化モデルも別に提供していくという。

 さらに、Windows 10からは新しく企業向けのWindows Update、「Windows Update for Business」という仕組みを提供。企業のグループポリシーやMDM(モバイルデバイス管理)のポリシーに沿って、企業内のグルーピングをしたり、アップデートのタイミングなどをコントロールできる。

 「企業は、アップデートにおいてある程度のコントロールをしたいと望んでいます。例えば、メンテナンスの時間であるとか、グループ分けをして帯域をコントロールしたいといったものです。こうした場合に、グループポリシーを当てたり、MDMのポリシーを当ててグループ分けをし、それぞれに配信するといったような設定ができます」(浅田氏)

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 企業内のユーザー、デバイス全てが同じ使い方をするとは限らない。Windows 10では、例えばモバイルデバイスやIT部門などは、最新のテクノロジーをいち早く活用するモデルを選択し、一部の厳密な管理が必要なシステムやデバイスについては、固定化モデルを使うといったような使い分けができる。

 Windows 10、WaaSは、テクノロジーの変化のスピードに迅速に対応すると同時に、企業内のさまざまなユーザーやデバイスの用途に応じて最適なモデルを選択できるようにしたことで、企業の細かなニーズに応えるのが狙いなのだ。

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