と、こんなドタバタ状態の中、こともあろうに恐ろしい本と出会ってしまった。
恐ろしいというのは、もちろんホラーとかサスペンスとかそういうことではない。夢中になりすぎて、忙しいのも疲れているのもすべてどうでもよくなり、次々とページをめくって読みたくなる本のことだ。そしてまた、いつしかなくしていた大切な気持ちを思い出せてくれた一冊だった。やらねばならないことをすべて放り出し、一気に読み終えてしまったのが、有川浩さんと村上勉さんの「だれもが知ってる小さな国」。
これを読んでいる時間、私は何とまあ幸せだったこと! もちろん毎日幸せに過ごしているが(笑)、このときの幸せというのは、フワフワと物語の中に完全に入り込んでしまっている幸せのこと。そう、皆さんも子どものときによく経験したであろう、登場人物と一緒になって感じる、あの幸せである。
物語は20年前、小学生のヒコとコロボックルという小人が出会うシーンからどんどんストーリーが面白くなっていく。養蜂家の子どもであるヒコは、蜂蜜が採れる季節ごとに、場所を転々と移動しながら一年を過ごしている。そんな中、梅雨から夏にかけて毎年過ごす北海道で、ヒコはコロボックル、そして心の友となるヒメと出会う。コロボックルと友だちでい続けるために決して破ってはならない約束、それはその存在を決して他人に話してはいけないこと。
そんな中、コロボックルがたくさんの人に知られてしまう危機が訪れ、ヒコやヒメたちでコロボックルの世界を守ろうと奮闘する姿が、とても優しく、そして子どもの純粋な目を通して鮮やかに描かれている。これだけを聞くと、児童向けのファンタジーと思ってしまいがちだけれど、決してそうではなく、大人までもがぐいぐいとその世界に引っ張り込まれてしまうところがこの物語のすごいところなのだ。
なぜかと言えば、この物語には、誰もが子どものときに持っていた感覚がたくさん詰め込まれているからかもしれない。照れながらも新しい友だちと仲良くなっていく感覚。自分一人の秘密にドキドキしながらも自慢に思う気持ち。自分で考えて決行したことを大人に認めてもらえる誇らしさ。その人がどんな心を持っているかをまっすぐに感じられる純粋さ。何かにひたすら夢中になれる自由さ――。
さみしいことだけれど、果たして、大人になった今でもそうした感覚をずっと持ち合わせている人がどれくらいいるのだろうか。
この本を読むと、登場人物のしぐさ、言葉の中に「そうそう、そうだったよね」と、たくさんの懐かしさが感じられ、いつの間にか自分も一緒になって子どものころの感覚のまま、物事を感じられるようになっているのです。
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