「ななつ星in九州」は、豪華な車両だけではなく、その運行形態も特別だ。どのコースも博多発博多行き。つまり、乗客は全員、出発した駅に戻ってくる。これは鉄道事業としては良い意味で非常識だ。なぜなら鉄道事業とは「自社の設備を用いて、他者のために移動や輸送を提供する」と定義されているからだ。厳密に言うならば、出発地に戻ってくる列車は「旅客が移動した」とは言えない。遊園地の乗り物と同じである。
しかし「出発地に戻るツアー」を組んだことで、ななつ星in九州は従来の「カシオペア」や「トワイライトエクスプレス」のような豪華寝台特急と一線を画した。「移動のためではなく、乗車そのものが目的となる」という「観光列車の基本理念」を明確にしてくれた。
さらに、車内設備、食堂車サービス、途中の宿泊地の選定に最高級の質を追求した。その結果、1人当たりの料金は1泊2日コースで25万円から、3泊4日コースで65万円から、最高は80万円(4泊5日2人1室)となっている。私のような庶民からみれば、富裕層向け、リタイヤ老人向けなどと揶揄(やゆ)したくなる。
そして、この市場に向けたサービスと価格設定こそが、JR九州のチャレンジであり、成功例でもある。これは鉄道業界だけではなく、日本のリゾート・レジャー産業にとっても注目に値する。日本では今まで、本格的に富裕層向けの取り組みが行われていなかった。日本のレジャー産業では苦手な分野だったからだ。
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