リゾートビジネスとしての観光列車はどうあるべき?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2016年02月12日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

レジャー産業の属性は「かけ算」で表せる

 話はさかのぼって、バブル景気真っ盛りのころ。日本では余暇の開発という大義名分で、全国各地にリゾート施設の建設ブームが起きた。日本人の旅行はせいぜい2泊3日。そこで、欧州のような滞在型リゾートを日本でも根付かせようとした。しかし、全国各地の試みはことごとく失敗し、廃墟になった。

 その代わりにゴルフ場やスキー場が乱立し、山や森林は破壊され、バブル崩壊後は破たんするゴルフ場やリゾート施設が続出した。高価で取引されていたゴルフやリゾートの会員権は紙くずになった。どうしてこうなったのか。日本のレジャー市場が未熟で、滞在型リゾートを利用する富裕層も醸成されなかったからだ。

 当時から最近まで、レジャー産業は、2つの属性が市場を形成していた。それは「可処分所得」と「可処分時間」のかけ算で表せる。1つは、「可処分所得が低く、可処分時間が長い」人の市場。もう1つは「可処分所得が高く、可処分時間が短い」人の市場である。「可処分所得が低く、可処分時間が短い」という働きアリはレジャー産業の対象にならない。

 「可処分所得が低く、可処分時間が長い」という属性は、主に学生・平社員、契約社員向けだ。飲食店で遊ぶなら居酒屋やカラオケボックスである。安い料金で長時間楽しめる。

 「可処分所得が高く、可処分時間が短い」という属性は、エグゼクティブと呼ばれる人々だ。給料は高いけれども、責任ある仕事に就いているし、勉強熱心だから遊ぶ時間は限られる。飲食店で遊ぶなら、高級クラブ、料亭。そして国外になるけれど、ドレスコード付きのカジノもそうだ。

 日本のレジャー産業は、主にこの2つの属性をターゲットとしてきた。そして、遊びに関する市場はたいていこの属性で説明できる。例えば、ソーシャルゲームアプリの「参加無料、アイテム課金モデル」だ。無料でじっくり経験値をためて遊び続ける人と、アイテム課金で短時間に有利になろうとする人は、そもそも遊びの属性が異なる。

 無料派がアイテム課金派へシフトするという考えは甘い。無料派は飽きたら新しい無料ゲームに移動するだけだ。そもそも課金派とは属性が違うからだ。だからこそバランス取りが重要になるし、かじ取りに失敗したゲームは廃れる。

 この2つの属性は、さまざまなビジネスに応用できる。

「可処分所得」と「可処分時間」でレジャー産業の属性が分かる 「可処分所得」と「可処分時間」でレジャー産業の属性が分かる

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