結局、インド当局から拒絶される形になったザッカーバーグは、「今日の決定は残念でならないが、個人的にインドと世界中でネットワークへの接続性のバリアーを取り除くために尽力し続けていきたい」と書面で述べた。その上で、「私たちは彼ら(10億人以上のインターネットにつながっていない人たち)をインターネットにつなげることで貧困からすくいあげる助けができるし、何百万という仕事を創出する助けも、教育機会を広げる手助けもできると分かっている」と改めて主張した。
ただザッカーバーグの動機が、貧困問題であってたとしても、貧困層を狙ったビジネス拡大であったとしても、インターネットにアクセスすらできない人たちにはフリー・ベーシックスのようなサービスを受ける選択肢があってもいいのではないか。逆に言えば、その機会を奪うことは、インターネットへアクセスする権利を制限することになりかねない。それもネット・ニュートラリティの意識に反するのではないか。
またインターネットに億単位で人がアクセスし、彼らがそのポテンシャルを知り、多くの人がデータ通信を通信会社やプロバイダと契約するようになれば、インドの経済にとっても悪いことではない(ちなみにフェイスブック側の言い分では、フリー・ベーシックスの利用者の5割は、後に自らプロバイダなどと契約してインターネットを使っていくことになるという)。ザッカーバーグの言うように、雇用が創出されたり、教育機会が増えることにもつながるもしれない。
さらに言うと、インド政府のポテンシャルを見れば、近い未来、独自に多くの人を貧困から救いあげることは容易ではないだろう。ならばフェイスブックの助けを得ることが、その手段の1つであってもよかったのでないか。
誤解のないように言うが、著者はフェイスブックの信者でもなければ、否定派でもない。
ただこの取り組みを完全に拒絶することには違和感がある。今回のインド当局による決定は、時期尚早だったのではないかと思わずにはいられないのだ。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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