フェイスブックの「無料サービス」は、本当に“中立性”を侵すのか世界を読み解くニュース・サロン(5/6 ページ)

» 2016年02月18日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

ビジネス拡大以外の何ものでもない

 ここで少しネット・ニュートラリティについて説明したい。ニュートラル(中立な、の意)なインターネットを意味するネット・ニュートラリティとは、ユーザーが開かれたインターネットへ自由かつ平等にアクセスする権利のことをいう。デジタル世界の自由を目指す米NPOの電子フロンティア財団の定義では、「開かれたインターネットを将来的にも守るために、インターネットのプロバイダー(ISP)がアプリやWebサイト、サービスを選り好みして不適切な差別をすることなく、平等にネットワークを走るすべてのデータを扱うこと」だとしている。

 インターネットは、世界中の人々が参加・貢献して築き上げてきたことで、現在のような利便性が生まれた。また海底や地下などを走るケーブルやルーターといったインターネットやデジタルネットワークのインフラは、そのほとんどが民間企業によって提供・運営されている。そういう事実を鑑みれば、インターネットは公共財だ考えられる。

 そして公共財であるインターネットには、誰しも等しくアクセスできなければいけない――。これがネット・ニュートラリティを尊重する人権意識をもった人たちの主張である。この議論は近年特に、インターネット関連の国際会議や米国の名門大学などでも盛んに議論が行われる分野の1つになっている。

 ネット・ニュートラリティを意識すれば、フェイスブックのフリー・ベーシックスは間違いなく批判に値するだろう。だが単純にそんな話で済ませてしまっていいのだろうか。

 そもそも、フェイスブックがフリー・ベーシックスを始めた背景は、「みんなにインターネットを」というキレイごとではなく、自らのビジネス拡大以外の何ものでもないという見方もあった。

 よく知られている通り、フェイスブックは収益の96.5%を広告から得ている。つまりユーザー数をどんどん増やすことがビジネス拡大には不可欠なのだ。そんなフェイスブックはアフリカやアジア、中南米の途上国に目をつけており、その中でも、世界トップクラスの人口を誇るインドは重要なマーケットだった。なぜなら、そこに大きなポテンシャルがあるからだ。

 インドの人口約13億人のうち、現在、2億5000万人ほどしかインターネットにアクセスしていない。そこで誰よりも先に、インターネットを使っていない10億人以上のインド人をできる限りフェイスブックのユーザーにしたいのだ(ちなみに同じように人口の多い中国ではフェイスブックは禁止されている)。

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