「脱・大きくて重い」 新ステージに入ったクルマの安全技術池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2016年03月22日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

安全性と軽量化の両立時代がやってきた

 技術というのはいつもそうだが、1つの項目だけ進化させていけばいいのならさほど難しいことではない。2016年の時点で言えば、衝突安全だけでなく、地球温暖化対策としての二酸化炭素(CO2)削減や、有害排気ガス削減といった環境問題にも十分な配慮が必要だ。「安全のためには重くなるのは仕方がない」と言うわけにはいかない。

 安全で軽量なシャシーを開発しなくてはならないのだ。上述のように衝突試験項目が次々と追加されて、後手後手に回ったその対策に振り回されてきた自動車メーカーが、ここ最近ようやく状況に追い付いた。

 近年はっきり打ち出されてきたのが、超高張力鋼板と呼ばれる高強度鋼板の拡大採用と、構造梁の形状の工夫だ。例えば、ボルボの例が分かりやすい。ボルボは5種類の硬度の違う金属を使い分けてシャシーを構築している。柔らかい順に並べると、鋼板、高張力鋼板、超高張力鋼板、超超高張力鋼板、ウルトラ高張力鋼板の順になる。これを適材適所に配置することで、つぶれて衝撃を衝突エネルギーを吸収する部位と、衝撃に耐えて生存空間を確保する部位を作り分けるのだ。

ボルボはXC90で5種類の鋼板と1種類のアルミを用いて、車体強度の分布をコントロールしている。基本的な考え方は多くのメーカーで共通だ ボルボはXC90で5種類の鋼板と1種類のアルミを用いて、車体強度の分布をコントロールしている。基本的な考え方は多くのメーカーで共通だ

 一般に超高張力鋼板以上の強度を持つ鋼板は加工が難しい。衝突の際に変形しにくいということは当然プレスが効きにくい。厳密に言えば、せっかくプレスしても形状が戻ってしまう。これをスプリングバックと言うのだが、そういう場合、プレスを複数回繰り返して造形するしかない。ところが、そもそもプレス機はコスト的にもスペース的にもそうそう台数が増やせない。

 しかも今やデザインは商品力を担保するためにも重要な要素だ。プレスしやすい形状にボディラインを妥協することも難しい。そこで、鋼板を加熱してからプレスするホットスタンプという手法が取られるようになった。しかしこれも生産時間が延びる原因になるほか、現在世界中のメーカーが取り組んでいる「混流生産」の足かせにもなる。加熱ブースがパネルの形状に依存するため、1ラインでいくつもの車種を作り分けようとすると制約が発生するのだ。

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