JR北海道が断念した「ハイブリッド車体傾斜システム」に乗るまで死ねるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2016年05月06日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

車体傾斜システムの変遷

 車体傾斜システムは大きく分けて2つの系統がある。「自然振り子式」と「強制車体傾斜式」だ。JR北海道が採用したハイブリッド車体傾斜システムはこの両方を搭載し、最大傾斜角を大きく取る。

 自然振り子式は台車と車体にリンク機構やコロを入れる。機器類を床下に集めて、車体そのものの重心を下げる。車体は直線区間では直立しているけれど、曲線区間に入ると遠心力で車体が傾く。説明するとシンプルだけど、この方式は乗り心地が良くなかった。小さな振動程度で車体がフラフラしてはいけないから、曲線に入っても、一定の遠心力がかかるまで傾かない。そして、限界を超えるとガクンと傾く。シンプルな構造だけに、曲線が終わって車体を立て直すと、反動で揺れ戻しが起きる。

 この問題を解消するために、エアシリンダーを加えコンピューター制御する「制御付き振り子方式」が開発された。走行距離と曲線区間のデータを登録しておき、情報をコンピューター制御で曲線区間の直前から車体を傾け、曲線の終わりでは揺り戻しを止める。基本機能は振り子式で作動するけれど、振り子状態の始めと終わりだけシリンダーでサポートする。だからガク揺れと揺り戻しがない。

制御付き振り子方式を採用したJR東海383系電車 制御付き振り子方式を採用したJR東海383系電車

 強制車体傾斜式は、車体が受ける遠心力は利用しない。つまり、振り子機構ではなく、油圧や空気圧で車体を傾ける。傾きの制御はコンピューターで行う。日本では空気圧式が普及している。鉄道車両は乗り心地を良くするためにエアサスペンションの採用が進んでいる。そのエアサスペンションの左右の空気量の差だけで傾斜を実現できるため、振り子機構より低コストだ。

 ただし、車体の左右どちらかを持ち上げる方式になるため、大きく傾けるとトンネルやホームの端などに接触しやすい。そこで傾斜角は2度程度に抑えられている。振り子方式の6度に対しては小さいとはいえ、結果的に架線の位置調整も不要になるから、線路設備も含めたコストパフォーマンスも振り子式より優れている。東海道・山陽新幹線のN700系、東北新幹線のE5系、E6系も強制車体傾斜式だ。

383系電車の展望車からの眺め。電柱の垂直に合わせたので傾きがよく分かる 383系電車の展望車からの眺め。電柱の垂直に合わせたので傾きがよく分かる

 ちなみに、北陸新幹線のE7系電車 / W7系電車には車体傾斜装置がない。最高時速がN700系やE5系より低く抑えられ、線路に急カーブが少ない。カントだけで「乗り心地基準」に収まると考えられたからだ。

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